ガンダム00第三話「変わる世界」放送時点で書いた話です。キャラの口調ですとか、のちのち齟齬が出てくるかと思いますが、どうかスルーしてやってくださいませ・・・。
宿敵編、せっちゃん(刹那)とハムの人(グラハム)です。
鍋の中の戦争(宿敵編)
刹那はまたしてもスーパーの、インスタント食品ではない棚の前に立っていた。沙慈と料理の腕と女顔について口論したが結論が出ず、それ以来定期的に夕食のおかずを交換する羽目になっているのだ。しかも裏でロックオンが一枚噛んでいるらしく、沙慈は初対面に比べて遠慮なく、そして友好的に刹那に接してくる。年齢は沙慈がひとつ年上ということもあってか、いつの間にか敬語も消え、名前で呼ばれるようになった。これじゃまるで普通の友人のようではないかと刹那は思う。生まれと過去から友人なんて少年兵時代の仲間しかいなかったから良く分からないけれど、沙慈から示される好意は知識として得ている一般的な友人のそれに思える。馬鹿馬鹿しい、と刹那は頭を振った。自分は世界に喧嘩を売った、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターなのだ。平穏は仮初。戦場に生きる人間だ。沙慈との関係も所詮表面的なものでしかない。
だけど刹那は今日もスーパーの棚の前に立っている。これは料理の腕と女顔についての決着がついてないからだと、まるで自分自身に言い訳するかのように呟きながら。
スープは昨日ロックオンが使い切らなかったキャベツに人参と玉葱とソーセージを入れ、コンソメで味付ければいいだろう。何となく米が食べたい気分なので、洋食に合わせてバターライスかガーリックライス。メインの鶏肉に骨付きのものを選び、バターの棚を経由してアルコールの並びに着いてから刹那はふと気がついた。白ワインが欲しい。だが今いる日本の法律では、未成年のアルコール飲酒と購入は認められていない。つまり16歳の自分は白ワインを買うことが出来ない。むっと視線を険しくして、刹那は並ぶワインたちを睨みつける。ロックオンに買ってきてもらうよう頼むか? いや、それでは帰りが何時になるか分からない。沙慈とのおかず交換は19時だ。鶏肉は一時間近く煮込まなくてはならない。時間がない。これだから圧力鍋を買うようにロックオンに言ったのに、高いからってあいつは。巡り巡って苛立ちはロックオンに向けられる。ぎらりと目だけがワインを貫いた。
「少年、未成年のアルコール摂取は禁止されているよ」
真横から落とされた声に、刹那は反射的に身体ごと引いて距離を取った。気配に気づいていなかったわけではないが、相手の関心が自分に向けられている感じはしなかったのだ。するりと身のうちに入られ、刹那の警戒心が一気に跳ね上がる。男はそれを少し驚いたように見つめていた。金髪の、二十代半ばから後半くらいの男。顔立ちからしてユニオン系だろう。シンプルなスーツに身を包んでいるが、会社員のような雰囲気、身のこなしではない。背は刹那よりもティエリアよりも高く、ロックオンよりは低く、アレルヤくらいか。男は表情を和らげて、再度話しかけてくる。
「そんなにワインを睨みつけて、どうしたんだ? 父親にでも頼まれたのかい?」
「・・・・・・料理で、使おうと思っただけだ」
「クッキングワインじゃ駄目なのか?」
「普通のワインを使った方が美味い」
「なるほど」
いくら得体の知れない男とはいえ、何もされないうちに叩きのめすのは拙い。刹那はあくまで秘密工作員であって、目立つ行動は控えなくてはならないのだ。しかもこのスーパーではすでに沙慈との口論で人目を引きまくった過去がある。これ以上目立ちたくはない。その考えが刹那に目の前の男の相手をさせた。
「ちなみに今日のメニューは?」
「・・・・・・鶏肉の白ワイン煮。バターライスと野菜スープ」
「美味しそうだ。作るのは君か?」
「悪いかよ」
「いいや、料理が出来るのは良いことだよ。味に自信は」
「あるに決まってる!」
思わず拳を握って意気込むと、男は今度は愉快そうに笑った。棚に向き直り吟味するようにワインのボトルを見比べる。警戒は怠らずに刹那はその横顔を眺めていた。奇妙な男だ。物腰は穏やかなのに隙がない。ミネラルウォーターのペットボトルを片手に二つ持っており、もう片方の手でワインを取る。
「AEUの2298年もの。料理に使うには惜しいが、君の手にかかるならワインも本望だろう」
男は自然な動作でボトルを刹那の持っていた籠へと放り込む。重さを感じるよりも先に今度は籠ごと奪われ、刹那は反応するのが遅れた。男は軽く笑んで、さっさと歩き出す。
「買うものはこれで全部かな?」
「おまえ、何を・・・・・・っ」
「早くおいで。レジが混んでしまう」
こいつは変な男だ、と刹那は確信した。籠を取り戻そうと手を伸ばすけれども、するりと交わされてしまう。男の持っていたミネラルウォーターも一緒に会計を済まされて、そのときに提示されたカードがユニオンの軍人しか持つことの出来ないものだったから、刹那は抵抗を止めた。余計な関わりを得ず、大人しく別れることだけに徹するべきだと判断して男の行動を見守る。次々と袋に詰めていく様子はどこか楽しそうだ。何だこいつ、と刹那は少し引いた。スーパーから出ると、ようやく袋が刹那に渡された。左手にそれを持たされ、右手にはワインのボトルを握らされる。
「・・・・・・これ」
「私からのプレゼントだよ。美味しいワイン煮を作ってくれ」
「金は」
「そんなことは気にせず、君は受け取っておけばいい」
あぁでも、と呟いて男は自らのネクタイをしゅるりと抜き取る。ライトブルーのそれをどうするのかと思っていれば、男は刹那の抱えているボトルに巻きつけた。あっという間に見事なリボンで飾られたワインと刹那を眺め、男は満足そうに笑う。
「私はグラハム・エーカーだ」
「・・・・・・」
「きっと私たちはもう一度会えるだろう。そのときは君の名前を教えてくれ」
それじゃ、と去って行かれなくても刹那は何も言うことが出来なかっただろう。変な男だという確信は、この短い時間でおかしい男までに変化してしまった。道路脇に停めてあった車に男が乗り込み、発車する。小さくなっていくそれを呆気に取られながら刹那は見送った。何だあれ、と思いながら。まるで通り魔のようだと思いながら。
喉が渇いたと言って通りがかりのスーパーに入っていった同僚が、やけに上機嫌で帰ってきた。ペットボトルの蓋を捻っているのを目の端で捉えながら、カタギリはアクセルを踏み込む。一瞬でスーパーの前の少年が小さくなった。
「一体何の気紛れだい?」
「鶏肉の白ワイン煮に必要なワインが買えなくて困っていたようでね。ガンダムのパイロットもあれくらいの年齢かと思ったら、つい手を貸したくなってしまった」
「まさか。今の子はどう見ても14・5歳くらいだろう?」
「そうだな。では純粋な好意にでもしておいてくれ」
首元を緩めようとして、グラハム・エーカーはネクタイがすでにないことを思い出して苦笑する。あの白ワインを使って作られる料理はきっと美味しいに違いない。食べられないことは残念だが、次に会えたときにでも頼んでみればいい。あの少年と自分は必ず再会できる。そんな運命をグラハムは確かに感じていた。
帰宅したロックオンは、テーブルの上にどんと載っている少しだけ量の減っている白ワインに目を瞬かせた。
「刹那、この高そうなワインどうしたんだ?」
尋ねられ、ぐつぐつと鍋を温めていた刹那は少し考えてから答えた。
「・・・・・・変な男から貰った」
微妙な間の後、ロックオンが素っ頓狂な叫び声を上げる。うるさいと思いつつ、刹那はレードルを回し続けた。今日の料理対決は刹那の勝ちだった。鶏肉の白ワイン煮は自信作。だけど何かいろいろおかしい気がする。
その後ロックオンによってアレルヤとティエリアが召集され、刹那は「怪しい人についていってはいけません!」とくどくど説教されつつ、本日の夕食を摂ったのだった。
あれりゃーは美味しいと言ってくれたけど、てぃえは無言だったので、せっちゃんは美味しいと言わせてやると決意したそうです。三部作終了!
2007年10月25日