ガンダム00第三話「変わる世界」放送時点で書いた話です。キャラの口調ですとか、のちのち齟齬が出てくるかと思いますが、どうかスルーしてやってくださいませ・・・。
同僚編、せっちゃん(刹那)とろっくん(ロックオン)です。
鍋の中の戦争(同僚編)
王留美から次の任務を聞き、仮宿のマンションに帰る途中、ロックオンはついつい溜息を吐き出してしまった。空はもう茜色に染まっており、街も帰宅途中のサラリーマンやOLで賑わっている。中にはこれから遊びに行く者もあるだろうが、大半は家に帰り、温かな夕飯にありつくのだろう。いいよなぁ、とロックオンは再度羨みの溜息を吐き出す。
ロックオンは現在、ソレスタルビーイングの同僚であり同じガンダムマイスターの刹那と共同生活を送っていた。ガンダムではともかく、生身の活動は二人一組とされており、最年少の刹那の面倒を最年長のロックオンが見ているのである。別段、そのことに彼は不満はなかった。ティエリアは刹那を認めていない節があるし、アレルヤと一緒にすると二人とも最低限の生活を送るだけに終わりそうだ。成長期の刹那にとってそれは良くないとロックオンは思っている。
刹那は幼少期を紛争の中で少年兵として育ってきたこともあり、同年代と比べて小柄だ。あれは良くないとロックオンは常々思っていた。ガンダムマイスターとしても体力があって越したことはないし、男としても逞しい方がいいだろう。そう考えて事あるごとにロックオンは刹那にミルクを御馳走している。
だがそんなロックオンの気遣いを他所に、刹那本人は最低限の生活さえ出来ればいいのか、食についてまったく向上心を持っていない。ありていに言えば料理をしない。朝食は固形食糧もしくはパン、おかずなし。昼食はファーストフード。そして夕食はレトルト食品。間食しないのは良いことかもしれないが、これはねぇよ、とロックオンはしみじみ思っていた。人間としてこれはない。少なくとも一食ぐらいは手で作ったものを食べるべきだ。それがロックオンの主張であり、刹那のためでもある。
ロックオンが毎食作れば悩みは解決されるのだが、生憎と工作員の身としてそんな暇は無いし、刹那の自立のためにも止めた方がいいだろう。だけど、それではいつまで経っても刹那の食生活を改善できない。どうしたものかとロックオンは頭を痛めていた。それはまるで子供の教育に悩む親のように。
「ただーいまー・・・」
今日の夕飯当番は刹那なので、またレトルトかと思えば挨拶の声も自然と力を失う。日本ということで靴を脱いで上がれば、ロックオンはいつもと違うことに気がついた。廊下の先、リビングダイニングのドアからほんのりと良い匂いがしてくるのだ。レトルトのどこか科学的なそれとは違う。まさか、と思って早足でドアを開ければ、リビングのソファーに座っていた刹那が新聞を閉じたところだった。少年らしいしなやかさで立ち上がり、目がロックオンを捉える。
「た、ただいま」
反射的にへらりと笑みを浮かべれば、やはり「お帰り」は返ってこない。いつもは視線を向けられるだけなのに、刹那はダイニングを通り抜けてキッチンへと入っていく。ピッとコンロのスイッチを入れる音がして、ロックオンも我に返った。
ダイニングのテーブルの上に食器が並んでいる。いつものようにレトルトパックひとつがぽんと置かれているのではなく、フォークとナイフが一人分セッティングされている。トースターが鳴って、刹那がフランスパンを二切れ取り出して皿に載せる。冷蔵庫から取り出したサラダと一緒にダイニングへ並べ、意趣返しのつもりか牛乳をコップに注ぐ。ぐつぐつと音を立てているのはオールパンだ。深めのそれから茶色の塊をディナー皿に載せ、きのことトマトの入ったデミグラスソースをたっぷり注ぐ。横に茹でたブロッコリーと人参を添えて、刹那はその皿をセッティングした場所へと置いた。牛乳、パン、サラダ、温野菜つきの煮込みハンバーグ。夕食らしい見事な夕食。しかも手作りらしいそれらを前に、ロックオンは問わずにはいられなかった。
「刹那・・・・・・まさか、これ、おまえが作ったのか・・・・・・?」
「だったら何だ」
「どういう風の吹き回しだ? 今まで俺が何度言っても料理なんかしなかったのに」
「嫌なら食べなくてもいい」
「食うよ! いや、食うけど」
恐る恐るセッティングされた席につく。「おまえの分は?」と聞けば、「もう食べた」という答えが返ってくる。じっと敵を見るかのように見据えられる中で、ロックオンは手を合わせた。祈りではない。匂いはとても美味しそうだし、見目も良い。刹那は料理が出来ることも知っている。「いただきます」と呟いてからフォークとナイフを握り、ハンバーグにそっと突き刺す。ちょうどよい硬さのそれにソースを絡ませ、口へ運ぶ。熱く香ばしい一切れをロックオンは咀嚼した。そして。
「・・・・・・美味い」
「っしゃ!」
漏れた感想に勢いよくガッツポーズを取られ、ロックオンは面食らう。向かいの席で刹那が珍しく感情をあらわにしている。その顔は16歳らしい少年のもので、二切れ目を食べながら「マジで美味いって」とロックオンは改めて告げた。ハンバーグは肉汁が溢れているし、ソースは薄すぎず濃すぎず丁度いい。ブロッコリーは青々としていて、人参は飾り切りまでしてある。サラダはセロリ独特の味が効いているし、パンにはオリーブオイルとパセリがうっすらと塗ってあった。手の込んだ見事な夕食だ。これを刹那が作ったというのがいまいち信じられず、ロックオンは再度尋ねてしまう。
「なぁ、刹那。何で急に料理なんてしようと思ったんだ?」
反応が見れて満足したのか、リビングに戻ろうとしていた刹那が振り返った。すぐに視線を逸らした横顔はどこかむすっとしており、不本意なのか何なのか、拗ねた色を覗かせている。
「・・・・・・隣のお節介に乗せられただけだ」
「お節介?」
「うるさい。片付けはおまえだぞ」
「了解。ホントに美味いよ。ありがとな」
本音で笑えば、刹那はぷいっと顔を背けた。そのままソファーに向かい、ぽすんと収まってまた新聞を広げ始める。『隣のお節介』という単語は気になったけれど、刹那のことだからこれ以上答えることはないだろう。まぁ手作りの夕飯、しかも美味いものにありつけただけで僥倖だ。しかもそれがかねがね頭を悩ませていた刹那の手料理とくれば、ロックオンの機嫌も上がっていくというもの。全て残さずぺろりと平らげ、鼻歌を歌いながら食器を片付けてロックオンは思った。今度は携帯で写真を撮って、アレルヤとティエリアにも刹那の料理を見せてやろう、と。
翌日、昨日の帰りとは打って変わってロックオンは上機嫌に家を出た。刹那もすでに出ているため、ポケットから取り出した鍵で錠を下ろす。すると隣の部屋からも学生らしい少年が出てきた。目が合い、刹那と同じ年くらいだな、とロックオンは見定める。
「や、おはよう」
円満な近所関係は潜伏する上での基本でもある。特別記憶に残らない程度に、着かず離れずの付き合いを心がけなくてはいけない。少年も軽く頭を下げ、けれど不思議そうに聞いてくる。
「あの・・・・・・刹那、君のご家族の方ですか?」
「ああ、俺はロックオン。刹那の兄代わりみたいなもんだ」
よろしくな、と笑いかける一方で、頭の中で昨夜の『隣のお節介』という刹那の台詞が思い浮かぶ。それを肯定するように少年も言葉を続けた。
「僕は沙慈・クロスロードです。・・・・・・あの、刹那君、怒ってますか?」
「ん?」
「昨日、ちょっと彼と言い合いをしてしまって・・・。それで売り言葉に買い言葉で、刹那君が手料理を作ることになってしまったんです。今思えば僕も失礼だったから」
ああやっぱり、とロックオンは笑った。
「いやいや、結果オーライさ。おかげで俺も美味い手料理にありつけるし、刹那の食生活も改善できて一石二鳥」
あいつファーストフードかレトルトしか食べないから、と言えば、沙慈もほっと安堵して肩を下ろす。
「刹那は愛想ないけど悪い奴じゃないから、よければまた構ってやってくれよ」
「はい。僕こそどうぞよろしくお願いします」
じゃあ、と再度頭を下げてから沙慈はエレベーターの方に歩いていく。その背をひらひらと手を振って見送り、ロックオンは小さく肩を落とした。刹那もあれくらい可愛げがあればと考えて、そんな刹那は想像できず頭を振る。まぁ、刹那は刹那で可愛げもあるし、あれはあれでいいのだろう。一人頷いてロックオンも歩き出した。
今日は帰りにキッチン用品を山ほど買いあさってこようと考えながら。
ろっくんは斜め前、過保護な保護者。あれりゃー(アレルヤ)は斜め後ろ、口出すタイミングが掴めない。てぃえ(ティエリア)は対面、睨み合い監視ポジション。
2007年10月25日