ガンダム00第三話「変わる世界」放送時点で書いた話です。キャラの口調ですとか、のちのち齟齬が出てくるかと思いますが、どうかスルーしてやってくださいませ・・・。
隣人編、せっちゃん(刹那)とさっちゃん(沙慈)です。






鍋の中の戦争(隣人編)





ソレスタルビーイングによる世界への介入が始まり、ガンダムエクシアのマイスターである刹那は当面、ユニオンの傘下である経済特区日本に潜伏することとなった。新築ではない、けれど古くもないマンションの中層階。2LDKのそのマンションは刹那と、同じくソレスタルビーイング所属ガンダムデュナメスのマイスター、ロックオンの仮宿となる。アレルヤとティエリアはまた違った場所に部屋を借りていた。ソレスタルビーイングは基本的に二人一組で動く。それを考えればマイスターの中で最年長のロックオンが最年少の刹那の面倒を見ることになったのも当然の流れだろう。
とにかく刹那はロックオンと一緒に日本で生活することになった。だが、ここでは掃除洗濯料理などの家事を全て自分でやらなくてはならない。電気代やガス代などの光熱費に関してはロックオンが処理を請け負ってくれたので、刹那に任せられたのは家事の半分。刹那とてソレスタルビーイングに所属するまでは、クルジス共和国で少年兵として戦場を駆けていたのだ。料理だって掃除だってそれなりにこなすことは出来る。だが、刹那は基本的に「食事なんて食べられればいい」と考えるタイプの人間だった。これも物資の乏しかった幼少期が元になっているのかもしれないが、とにかくそんな刹那は今日もスーパーマーケットでレトルトのカレーパックを手に取った。
「あ」
自分以外の呟きにそちらを振り返る。色とりどりの品が陳列されている通路に、刹那と同じ年くらいの少年がいた。学生らしい服装をしているが、顔はしっかりと刹那を見ている。視線が合うと申し訳なさそうに笑い、何故か話しかけてきた。
「あの、セイエイさん」
綴られた自分の名に、刹那は僅かに気配を尖らせる。彼は目の前の少年に見覚えがまったくない。
「・・・・・・誰だ、おまえ」
「あ、えっと、隣に住んでます沙慈・クロスロードです。・・・・・・この前一度、お会いしてるんですけど」
そう言われても刹那に覚えはないし、興味もない。さっさと視線を棚に戻し、適当にレトルト商品を籠に入れていく。今日の食事当番は刹那なので、ロックオンの分も買って行かなくてはならない。成長期にはバランスの取れた食事うんぬんと言ってくる同僚が思い出されて、うんざりとしながら野菜30品目のインスタントスープを籠に放った。
その間も何故かずっと隣に立っていた沙慈は、次々と積まれていくインスタント食品の山に眉を顰めた。
「・・・・・・それ、まさか夕飯ですか?」
刹那はちらりと視線をやったが、すぐにシチューのパックに移した。その仕草に自分の発言が正解だと知って、沙慈は否定の言葉を続ける。
「夕飯がレトルトだなんて、そんなの駄目ですよ! 一日くらいならまだしも、そんなにいくつも買って・・・。それじゃ体を悪くしますよ?」
「おまえには関係ない」
「それはそうですけど・・・・・・大きくなれないですよ」
ぴくっと刹那が反応した。それはもしかしたら「ぴきっ」だったのかもしれない。つい先日、ロックオンに奢られたミルクが思い出される。あれは違うことなきミルクだった。牛から分泌された白い液体。たんぱく質とカルシウムの山。それが刹那に振舞われた。他の三人はコーヒーだったのに、自分だけがミルクだった。それはロックオンが刹那の成長を思っての行為だったのかもしれないが、余計なお世話だ。思い出して怒りが湧き上がり、籠を握り締める手に力がこもる。別に、気にしているわけじゃない。他の三人に比べて背が低いことを気にしているわけじゃない。年齢差だって人種の差だってあるし、別に、ロックオンが自分と話すときにいちいち腰を屈めて視線を合わせてくるのを気にしているわけじゃない。
だけど刹那はぎらっと目を滾らせて沙慈を振り向いた。その剣幕に沙慈が一歩引く。その身長はロックオンほど高くない。アレルヤよりも低い。あって、ティエリアと同じくらいか。
「おまえみたいな女顔に言われたくない」
その発言に今度ぴきっと来たのは沙慈だ。彼は彼で気にしていた。自分の顔立ちが五つ上の姉にとても良く似ているということを。恋人のルイスにも言われたことがあるくらいなのだ。「沙慈ってまるで女の子みたいね」と。あのときのやるせなさやら不甲斐なさやらが一気によみがえる。
「っ・・・普通、そういうこと言いますか!? たいして親しくもない相手に!」
「おまえが先に余計なことを言ったからだろ。人の食生活に口を突っ込むな」
「本当、突っ込まなきゃ良かったですよ! セイエイさんの食生活が悪くて背が伸びなくても僕のせいじゃないんだし!」
「っ・・・俺は伸びる! 料理だって作れないわけじゃない、作らないだけだ!」
「それをものぐさって言うんですよ! 自分から手を抜いて背を伸ばせるわけじゃないですか!」
「うるさい! おまえこそその女顔をどうにかしろ! その顔で恋人が出来るわけないな!」
「セイエイさんに言われたくないですね! あなたの方が僕より小さいし、よっぽど女の子じゃないですか! 第一僕にはちゃんとルイスっていう彼女がいます!」
「俺のどこが女だ! おまえの彼女だっておまえのことを可愛いって思ってるに決まってる!」
「それは・・・っ!」
少年二人の口論に、ざわざわと周囲の客たちが視線を向ける。刹那の手がスーパーの籠で埋まってなければ、沙慈相手に手を出していたかもしれない。確かに小柄で少女めいて見えるかもしれないが、刹那は立派なガンダムマイスターであり、ソレスタルビーイングの戦士だ。白兵戦でもそれなりに成果を上げる刹那にとって、沙慈など道端のぺんぺん草に過ぎない。しかし今は戦場ではなくスーパーで、コンプレックスを突かれたからこそ、戦士としての顔はどこかに飛んでしまっていた。言い争いはヒートアップし、ついに刹那は持っていた籠をひっくり返す。レトルト食品が床に落ちて山となる。
「そこまで言うなら作ってやるよ! 俺の料理はおまえなんかのより断然美味い!」
「だったら僕だってルイスを呼んで証明してもらいますよ! 僕よりセイエイさんの方が絶対に女顔だって!」
「吠え面かくなよ!」
「そっちこそ!」
空の籠をがんがんとぶつけるように、二人は睨み合いながら野菜コーナーへと向かっていく。落とされたレトルト食品は放置のままだ。キュウリはとげとげしている方がいい、牛蒡は泥つきの方が新鮮で、なんていう怒鳴りあいが魚売り場に移動し、肉売り場に移動し、乳製品売り場を経由してレジにたどり着き、たくさんの材料で膨らんだ袋をがさがさと両手で鳴らして、言い合いをしたまま少年二人が去っていく。客たちはそれを呆気に取られたように眺めていた。何だ今の、と思いながら。
料理の腕と女顔の決着がどうなったのか、彼らは知らない。





さっちゃんは、せっちゃんの話をちゃんと聞いてくれる子だといいな・・・。
2007年10月25日