end or continue?
柳洞寺を拠点として漏れだした泥のようなもの、おそらく聖杯の中身から逃げるように切嗣は踵を返した。すでに臓硯の姿はない。おそらく本体の核である蟲も消滅してしまっただろう。目撃した光景を忘れぬよう脳裏に繰り返しながら、切嗣は駆けるように山を下る。
「まいったな・・・」
呟きに思わず舌打ちを重ねた。
「根源に至ろうとすると、それを阻止せんとする存在が出てくるわけだ。何だ、あれは? 能力はサーヴァントに近いみたいだが、どうやってあれに対抗する? 道を開く術はすでに理解した。今度はあれを排除する方法を考えないと」
守護者という理念を、未だ生きている一介の魔術師である切嗣は知らない。けれども外の世界からやってきた何かが臓硯を滅したのは確かに見た。あれをどうにかしなければ根源へは辿り着けない。新たな越えるべき課程が誕生してしまった。指針を考えなければ、と切嗣が定めたところで、視界に何かが映る。それは人のようだった。地面に倒れ伏している。切嗣の進路にあるそれを、見捨てるべきかと一瞬迷った。その間に、人影が呻き声を挙げてうっすらと瞼を押し開く。目が合ってしまった相手を捨て置くほど、切嗣は非情ではなかった。
「君、大丈夫かい?」
尋ねるけれども、その身体は酷い怪我を負っている。真っ当なものじゃないことは一目で知れたし、厄介事の気配がしたけれども、そのときの切嗣はすでに自身を死徒化させるつもりだったから、ついでに問うた。永年を生きることになるのなら、雁夜の言う愛してくれるような人じゃないけれども、誰かと一緒が良いと、気の迷いのようなことを思ってしまった。だから切嗣は手を伸ばし、問うた。
「僕は衛宮切嗣。君は?」
「・・・言峰、綺礼・・・」
「そう。綺礼、僕と一緒に来るかい?」
少しの間の後、傷だらけの分厚く逞しい手のひらが、切嗣の手を掴んだ。引き起こして、逃走用に準備していた車へと向かう。言峰を助手席に座らせて、切嗣はハンドルを握った。もはやこの街に未練はない。
そうして切嗣は聖杯に背を向けて冬木市を去った。彼の根源へ至るための旅路は、まだ終わらない。これからも永遠に近い時間をかけて続いていく。途方もない道のりに、切嗣はそっと溜息を吐き出した。
切嗣さんは言峰を人工サーヴァントに仕立てて守護者と戦わせようかとか考えている。言峰が愉悦に目覚めてしまうか否かが大問題。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
2014年2月28日(pixiv掲載2014年2月24日)