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葵と凛は聖杯戦争が始まる前に、実家である禅城の家に避難を済ませたらしい。巻き込まないように配慮したその点は、雁夜も時臣の采配を認めている。けれども桜を間桐なんかに養子に入れた件に関しては未だに腸が煮えくり返っているため、とりあえず次に会ったときには一発殴ると決めていた。
間桐家でも、一応表向きの当主である鶴野の長子、慎二は一ヶ月あまりイギリスに留学させている。これはまだ魔術について何も知らない彼が、巻き込まれて人質にでもされたら厄介だからという計らいだ。その慎二の父親の鶴野は、毎夜マスターとサーヴァントが闊歩しているのが恐ろしいらしく、アルコールに頼って部屋に閉じ籠り出てこない。雁夜は桜も避難させるべきだと主張したが、臓硯はそれを許さなかった。これは間桐に入った娘、故にすべてを見ておく必要があると言って。だから雁夜もどこにも行かずに、毎日毎晩桜の傍を離れなかった。
「遠坂時臣がアーチャー、言峰綺礼がアサシン、アイリスフィール・フォン・アインツベルンがセイバー、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトがランサー、ウェイバー・ベルベットがライダー、雨生龍之介がキャスターか。ふむ、これで七組出揃ったのう」
未だ姿を現していないキャスターとそのマスターを捕捉したのは、臓硯の操る蟲に他ならない。特に今回のキャスターのマスターは正規の魔術師でないからか防衛が甘く、見つけることさえ出来れば監視は容易だった。
「アサシンが派手にアーチャーに敗れたようだが、冬木の聖杯戦争に召喚されるアサシンは常にハサン・サッバーハじゃ。複数の個体を持つ故に一匹やられたところで敗退は有り得ん。遠坂の小僧め、下手な芝居を打ちよって」
二十四歳の肉体を持つ臓硯は、雁夜と切嗣と並ぶこの中では最も外見年齢が若い。そうでありながらも口調は老爺のそれで、違和感は未だに雁夜を蝕んでいた。自分と同じような年齢の父親と話すのは、何だか思っていた以上に気持ちの悪いものだった。
「ふむ、どこから崩していくかのう。バーサーカーの宝具から、アーチャーはいつでも倒せるから遠坂は後回しにするか。アインツベルンも終盤までは放っておいて問題あるまい」
「何でだよ?」
首を傾げる雁夜に、答えたのは切嗣だ。
「アイリスフィール・フォン・アインツベルンはホムンクルスだ。アインツベルンが用意した聖杯の器でもある。サーヴァントが器に溜まれば溜まるほど人としての機能を失って動けなくなるから、そうなればマスターを葬るのは簡単だ」
蟲で見た倉庫街の戦闘を雁夜は思い返す。セイバーのマスターは白銀が印象的な美しい女性だった。表情の少なさが少し気にかかったけれども、あれはホムンクルスという造られた存在だからなのだろうか。ちなみにあのとき、ライダーの挑発に応じたわけではないけれど、臓硯はバーサーカーを現界させていた。相性を見ておく必要があるからのう、と臓硯本人は間桐家で平気そうに笑っていたが。
「ならば初めに攻めるのはランサー陣営にするか」
愉しげに唇の端を吊り上げて、臓硯はくつくつと喉を揺らす。
「男がふたりに女がひとり。いつの世も男女の関係は複雑なものよ」
「・・・趣味わりぃ」
「何を今更」
嘲笑う臓硯は若く美丈夫で男の艶があったが、その下卑た思考回路に雁夜は引いた。切嗣は何も言わない。
その翌日、ランサー陣営の脱落を聞いた。臓硯に操られた女が婚約者を刺し、主の危機に反応したランサーがソラウに攻撃を仕掛け、それに逆上したケイネスがランサーに自害を命じた。結果的に三人が巡り巡って命を落とし、臓硯は楽しげに笑っていた。
切嗣と出会っていないから、アイリスフィールは情緒が育たなかったのです。
2014年2月28日(pixiv掲載2014年2月24日)