eight seconds





それに雁夜が気が付いたのは、マレーシアから半年振りに帰国したときだった。空港から一歩出た途端、懐かしい祖国の風が全身を撫でる。とりあえず出版社に、とモノレールに向かおうとした雁夜の視界に、それは映った。雀だった。空港では余り見かけることのない小さな鳥が一匹、手摺りに乗って雁夜を見ていた。
違和感を覚えたのは経歴か、あるいは途絶えんとしている血統か。眉を顰めた雁夜の目の前まで飛んできた雀は、彼の肩に停まると鳴いた。本来の可愛らしい囀りではなく、人語を解した。
『雁夜、この知らせを聞いたのなら連絡をくれ。一刻も早くだ。・・・でないと、手遅れになる』
声は切嗣のそれだった。記憶よりも掠れ、若干低くなっているけれども、おそらく間違いはない。雀は伝言を告げると、ふわりと翼をはためかせて空へと飛んで行った。間桐家が操る蟲のような使い魔だったのだろう。どうする、と雁夜は焦った。出奔してから十一年間連絡を取ることのなかった相手だ。無視をしても良いのかもしれない。けれども切羽詰った切嗣の物言いが、雁夜に嫌な予感を齎していた。
「何だって言うんだよ・・・!」
舌打ちをし、雁夜は逸る気持ちを堪えながら携帯電話を取り出してボタンを押した。自宅の番号なんてメモリに登録してあるわけがない。けれども覚えている。コール音を数える雁夜の脳裏は、臓硯が出るかもしれないという危険性を忘れていた。そうして出てくれたのは通いの手伝いの者ではない、切嗣だった。
『・・・雁夜? 雁夜なのかい?』
「・・・ああ」
『良かった』
ほっとした吐息を漏らし、けれどもすぐにそれを引っ込めて、切嗣は抑えた声で告げた。葵の娘の桜が間桐の養子になったと。再び雁夜の足元が、嘲笑うかのように崩落した。





切嗣さんの使い魔は別に魚でも良かった。陸上じゃ動けないけど。
2014年2月28日(pixiv掲載2014年2月24日)