a second
間桐雁夜がその人物と初めて会ったのは、彼が中学生になる直前の春のことだった。戸籍上の父親に当たる臓硯が、雁夜と兄の鶴野を呼びつけて紹介したのだ。年頃は同じくらいの、黒髪に黒目、健康的な肌色の少年だった。
「今日から共に暮らす切嗣だ」
「・・・衛宮切嗣です。よろしくお願いします」
雁夜より少し背が高く、けれども鶴野よりは低い。二歳年上なのだと、後に聞いた。
「これには儂の仕事を手伝ってもらう。邪魔をするでないぞ」
仕事、という単語に雁夜は顔を強張らせた。隣の鶴野などは肩を震わせてびくつき、その目には明らかな恐れが宿る。臓硯の言う「仕事」が何なのか、間桐に生まれて十数年、嫌になるくらい理解している。つまりそれは、魔術だ。雁夜が腹の奥底から嫌い、厭い、憎む、醜悪な間桐家自体に他ならない。
その助手と聞いて、雁夜は自然と目の前の少年、切嗣を睨み付けてしまった。ばちりと音を立てて視線が重なる。切嗣は睫毛を瞬かせ、その奥に不思議そうな色を覗かせた。感情だった。けれどそれも、臓硯がかける声によって消し去られる。
「おまえの工房はこっちじゃ。来い、切嗣」
「はい」
着物の袖を翻した臓硯に従い、切嗣も踵を返す。屋敷の奥へと消えていくその背を、雁夜は立ったまま見送った。それが伝統を背負う間桐家次男の雁夜と、歴史浅くして封印指定を受けた鬼才の血統、衛宮家当代を担う切嗣の出逢いだった。
衛宮の魔術は臓硯さんにとって喉から手が出るほど欲しいものだったんじゃないかな、と。
2014年2月28日(pixiv掲載2014年2月24日)