渚カヲルの朝は、綾波レイを起こすことから始まる。
「レイ、朝食が出来たよ。そろそろ起きないと学校に遅れる」
何に対しても淡白なレイは、軽く肩を揺すったくらいでは目覚めない。意外に寝汚い彼女を起こすのは手間だけれども、最近ではコツも掴んできている。掛布から出ている両腕を掴み、ぐいっと上半身を起き上がらせる。それでもふらふらと揺れている額に己のそれを合わせ、もう一度優しく朝を告げる。
「おはよう、レイ」
「・・・・・・もう、朝?」
「そうだよ。今日は学校に行く日だろう?」
舌足らずな声に思わず笑みが零れてくる。赤い目がしばらくぼーっと彷徨い、そしてようやくカヲルを捕らえる。
「・・・おはよう、渚君」
「おはよう、レイ」
手を引いてベッドから下ろし、テーブルセットの椅子に座らせる。二人で過ごし始めることによって、レイの生活は人間らしいものへと改善された。埃の積もっていた床は綺麗なフローリングを保っているし、倒れていたゴミ箱もカラフルなものに変えられている。下着はクローゼットに仕舞われるようになったし、水を張ったまま放置されていたビーカーも姿を消した。少し大きくなったベッドとテーブル、椅子が二脚。テレビは相変わらずないけれども、食器や歯ブラシは二つずつ置かれるようになった。一般的な二人暮らしと言ってもいいほど、彼らの部屋には色が満ちている。
朝食はご飯と味噌汁、それに目玉焼き。レイの視線は毎朝それらを見て困ったように左右に揺れる。
「渚君、私、朝食は」
「駄目だよ、食べなきゃ。ただでさえレイは細いんだから」
毎朝同じことを繰り返して、カヲルが勧めることによって、ようやくレイは箸に手を伸ばす。これでも同居したばかりの頃に比べたら格段に進歩しているのだ。あの頃は結局、レイはご飯を三口食べただけだった。それが今は全部食べきるまでになっている。
食べ終えた後は、レイがシャワーを浴びている間にカヲルが食器を洗って片付ける。濡れた髪のまま出てきた彼女を捕まえて椅子に座らせ、水色の髪にドライヤーをかける。柔らかい手の感触にレイがうとうとと二度寝しそうになっていると、充電器の上の携帯がメールの着信を知らせた。カラーリングが水色のそれはレイのもので、渡してやれば目を擦りながらメールを開く。
「・・・・・・アスカから。英語の宿題、学校で見せてって」
私、やってないのに、と聞く者が聞けば困っている響きを持たせてレイは呟く。大丈夫、僕もやってないよ、とカヲルは笑った。
「どうやらシンジ君もやってないみたいだし、パイロット四人で廊下に立たされることになるのかな」
「・・・・・・シンクロ率の測定実験が入ればいいのに」
「そう上手くはいかないものさ」
カヲルの言葉にレイが浅い溜息を吐き出していると、もう一度携帯が鳴った。今度は電話で、液晶に映った『赤木博士』という文字に思わず顔を見合わせる。カヲルが楽しそうに笑い、レイも少しだけ唇を緩めて通話ボタンを押した。
「はい、綾波です」
『レイ? おはよう。急で悪いのだけど、明日のシンクロ率の定期測定が今日に変更になったの。アスカたちにはこちらで知らせるから、今から渚君と一緒にネルフ本部に来てちょうだい』
「分かりました」
短い通話の横で、今度こそカヲルは声を上げて笑った。
「これで立たされることはなくなったね」
「ええ、良かった」
髪も乾かし終わって、制服を身につけたレイのリボンをカヲルが直してやる。教科書の入っていない鞄を形だけ持って部屋を出た。鍵を閉めた扉の郵便受けも綺麗なもので、ネームプレートには二つの名前。
「行きましょう、渚君」
「そうだね。行こうか、レイ」
並んで歩き出し、ネルフへの道を辿る。太陽の光りが眩しく、少年少女の姿を煌かせていた。











(カヲレイ派です。映画も観に行く!)



2007年8月30日