Last.この命尽きるまであなたを愛すると誓います
城から少しばかり離れた丘に、シェリルはいた。供は連れておらず、代わりに常時付き従っている忍びのうち一名が姿を現している。けれども政宗が現れたことで、それも消えた。木の上か、あるいは岩の影か、どこかにいるだろうけれども見えなければそれでいい。馬から降り、政宗は一歩進んだ。シェリルは背を向けて立っている。聞こえてくるのは穏やかな調べで、どことなく寂しさを感じさせる。変わらない淡い桃色の髪と、政宗と同じ青色の着物が風に揺られる。細い背を政宗は静かに見つめた。声が、音が、空へと吸い込まれ消えていく。その向こうに星たちの連なる銀河があるというが、どれだけ行ったってシェリルの元いた世界には辿り着けない。彼女は孤独だ。だから帰るべき場所になりたい。帰るべき場所が例えあっても、自分のところにしてほしかった。歌が止み、余韻を残してシェリルが振り返る。その顔が浮かべていたのは涙ではなく微笑だった。
「もういいのか?」
「ええ。お別れを告げていたの。届くかなんて分からないけど、マクロス船団に、ランカちゃんに、あたしのファンだと言ってくれた大勢のひとたちに。・・・アルトに」
ふわり、告げるシェリルに、また一歩政宗は近づく。距離は縮まってもシェリルは逃げなかった。ただ優しく微笑んでおり、その瞳は政宗から逸らされない。
「だって、分かっちゃったんだもの。戦場で政宗に『飛び降りろ』って言われたとき、あたし、恐怖なんてちっとも感じなかった」
風が吹いて、草木を揺らす。くすぐったそうにシェリルが肩を竦める。
「政宗が受け止めてくれるって、馬鹿みたいに信じて疑わなかったのよ。後から振り返ってびっくりしちゃった。一体いつの間にこんなに頼りにしてたのかしら、って」
距離はもう、五歩もない。更に足を進めて立ち止まれば、シェリルは政宗を見上げてくる。眼差しは落ち着いて柔らかで、そしてまっすぐだった。
「だからお別れしたの。ねぇ、あたしにはもう何もないけど、この身ひとつのシェリル・ノームだけど、でもあたし」
「Stop. そこから先は俺に言わせろ」
伸ばした手で、政宗はシェリルの口を覆った。驚いて瞬きをしていたが、掌の下でシェリルが笑う。白い指先が政宗の手に添えられて、外して、ずるいわ、と不服そうに彼女は言った。
「こういうことに男も女もないでしょ?」
「矜持の問題だ。先に言われちゃ奥州筆頭の名が廃る」
「あら、泣かしてあげたいわ。だって、あたしから言った方が後腐れがなさそうじゃない」
「Hey honey. 誤解すんなよ。俺にはおまえだけだ。おまえがいれば他の女はいらない」
「馬鹿、何言ってるの。知ってるのよ? 政宗みたいな武将は、何人もの女と結婚してたくさん子供を作らなくちゃいけないんでしょ?」
「おまえが産めばいいだけの話だろ?」
「だって、それは・・・分からないじゃない」
「そうだな。先のことは誰にも分からねぇ。だったら今俺が何を言おうが勝手だ。違うか?」
「屁理屈よ。永遠も信じさせてくれないの?」
「毎日繰り返してやるよ。死ぬまで続けば、それが俺とおまえの永遠だ」
そうだろ、と囁けば、シェリルの瞳が潤って眇められる。政宗は両手で、そっと彼女の頬を包み込んだ。伝わってくる体温が、ここに存在することを教えてくれる。
「捨てるなよ。俺はおまえの世界もひっくるめて受け止める」
「政宗」
「強さも弱さも抱えてこその俺たちだろ? 身ひとつで結構! それ以外に何がいる?」
「そう、ね。すべて抱えてこそのあたしたちだもの」
「Yes. だからおまえはここにいろ」
身体を寄せて、体温を分かち合い、シェリルは政宗の背後に遠く続く空を仰ぎ、政宗はシェリルの背後に確固とした大地を見た。風が吹いて撒き散らす。それでも互いの腕の中に、互いがいることは真実だった。時は来た。
「俺に嫁げ、シェリル」
「大好きよ、政宗」
「I love you too. 銀河の分まで愛してやるよ」
頷いた彼女に鼻先を摺り寄せ、政宗は噛み付くように唇を重ねた。見つめ合い、幸福に綻ぶ瞳がそっと閉じられる。政宗の腕がシェリルの帯を引き寄せ、シェリルの腕が政宗の着物の背を掴んだ。きつく抱き締め合って、ただただお互いの存在に酔いしれる。どこまでこの幸せが続くかは分からない。それでも後悔だけはしないと思ったからこその恋だった。
好きよ。シェリルの歌う様な囁きに、政宗は俺もだ、と笑う。出逢いはきっと必然だった。
これにて完結。お付き合いくださりありがとうございました!
2011年2月12日