【「さて、諸悪の根源を語ろうか」を読むにあたって】

永遠のヒーローであるパンのアニメ。擬人化。というか大学パラレル。ばいきんまんメイン。
以上が受け入れられない方は、決してご覧にならないで下さい。むしろ名称だけ同じ別の話だと考えた方が正確かもしれません。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでも駄目だと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼


































何が間違っていたのかと過去を振り返れば、そう、すべてが間違っていた。その中でも最低最悪の過ちは、小学校であの男に出会ってしまったことだ。あんぱんまん。あの忌まわしき男。小学校のときから同じクラスだった。中学校も同じクラスだった。高校も同じクラスだった。成績優秀運動神経抜群、同級生と教師からの人望も厚く、12年間学級委員を務めた男。「困っている人は見捨てられない!」とのたまい、ヒーローそのままの行動ばかりを繰り返していた男。そんな彼をライバルと認識し、常に敵対してきた自分。だからつい、言ってしまった。高校三年生の岐路、「ばいきんまん、僕は困っている人を救うため弁護士になるよ!」と宣言してくれやがった相手に、「じゃあ俺様は検察官になって、おまえの目論見をぶち壊してやる!」と。思えば、あれが愚の極みだった。自分は根っからの理系で、その時点で特許もいくつか取得しており、大企業からのスカウトも来ていたというのに。
すべてはあのときの売り言葉に買い言葉で、自分はこの国の最高学府で法律の勉強なんかをする羽目になってしまったのだ。





さて、諸悪の根源を語ろうか





法学部なんて最悪だ。一限から六限まで授業はみっちり入っているし、持ち歩く教科書は重い。六法全書なんて全部覚えたのだから必要ないのに、教授は常に持ち歩くよう命令してくる。黒のデザインスーツでまとめた俺様が何でこんなでかい鞄を持って歩かにゃならんのだ、とばいきんまんが苛立ちながら席を立つと、一番前の席で授業を受けていたあんぱんまんが笑顔満面で寄ってきた。寄ってくんな、とばいきんまんは毎度思う。
「ねぇ、ばいきんまん。これから暇かい?」
「暇じゃねー。俺様はもう帰るんだ」
「帰るだけだろう? だったら今日サークルの飲み会があるんだけど、どうかな? 部外者でもオーケーだって言ってたし」
「だから俺様は」
そんな世界のパンを食い尽くすサークルになんて興味はない、と言ってやろうとした瞬間、スーツの内側で携帯電話が震える。バイブレーションにしてあるが、授業中に鳴らなくてよかった。あんぱんまんがどうぞ、と笑顔で勧めてくるので、舌打ちして取り出した。液晶画面に浮かぶ名前を見て、慌てて通話ボタンを押す。
「ど、どきんちゃん!?」
『あ、ばいきんまん? ねぇ、あんた今どこー?』
「六限の授業が終わったところ。九号館」
『あたし芸術学部の前にいるんだけど、迎えに来て』
「分かった。すぐ行くから」
ぴっと通話を切って肩を撫で下ろす。彼女からの電話は疚しいことがないのにどうも緊張してしまう。大きく息を吐き出した横で、あんぱんまんが「残念」と肩を竦めて笑った。
「どきんちゃんの命令なら仕方ないね。また今度誘うよ」
「うるせー。さっさとパンの食べすぎで病院に運ばれろ」
「君は昔っから、どきんちゃんに弱いよね」
「・・・・・・うるせー」
吐き捨てて教科書とルーズリーフをしまう。ブランド物の鞄も六法全書の重みでチャラだ。「ばいばい、ばいきんまん。また明日」と手を振ってくるあんぱんまんも最悪だし、いらいらしながら駐車場に向かう。少しでも待たせれば怒られてしまう。最後は駆け足になりながら車にたどり着き、ばいきんまんはキーを回してエンジンを噴かした。



この大学は国内最高ということもあり、多くの学部を備えている。ばいきんまんの属する法学部は人数も多いこともあって本館に近いところに位置するが、芸術学部なんかになると敷地内の最奥に近い。一度大学を出て、壁沿いに車を走らせる。ばいきんまんが好むのは外国産の大きな車だが、それだと入り組んだ道が走りづらいので、大学にはもっぱら手頃な国産車で通っていた。それでも三百万はするスポーツカーだ。カラーリングは黒。同じ車種で赤なのはどきんちゃん専用車だ。
人の多い大学でも、どきんちゃんの存在はすぐに見つけることが出来る。薔薇のように赤い髪を背中に流し、姿勢よく立っているスタイル抜群の美人を無視しろという方が難しい。今日も門の前に立っているだけなのに、いつもと違わず男子学生だけでなく女子学生の視線まで集めている。ちなみにばいきんまんも視線を集めるタイプの人間だった。彼の場合はクールな美貌ということもあるが、大学に常にスーツを着てくることでも有名なのだ。あんぱんまんも人気があって交友関係が広いし、ばいきんまんの知っている人間は誰もが目立つタイプの人間である。
ぱっぱーとクラクションを鳴らせば、携帯をいじっていたどきんちゃんが顔を上げた。完璧なメイクでもともとの美しさが更に際立って見える。着ているのは先週ばいきんまんが強請られて買ってあげたワンピースで、厭味なく彼女に似合っていた。ミュールを鳴らして走り、どきんちゃんが助手席に収まる。運転席にいるのがばいきんまんだと知って、周囲の生徒たちが残念やら感嘆やらの溜息を溢れさせた。それらに取り合わず、ばいきんまんは車を発車させる。
「最低っ! しょくぱんまん様、明日からコンクールでいないんですって!」
「観に行けばいいじゃないか。この前みたいに」
「二ヶ月前は国内だったから行ったのよ。今回はアメリカだしー・・・・・・あーでも行っちゃおうかなぁ」
「・・・・・・どきんちゃん、スペイン語の出席、やばいんじゃなかったっけ?」
「そうなのよぉ! あーもう最悪っ!」
やだやだ、と子供のように喚くどきんちゃんは同じ大学の国際教養学部に籍を置いている。五ヶ国語を操る才女の彼女が片思いをしている相手は、芸術学部音楽科のしょくぱんまん。ばいきまんたちより一つ年上の彼は将来を嘱望されているバイオリニストであり、あんぱんまんの友人でもあった。ちなみにどきんちゃんは、ばいきんまんの親戚だ。同じ年ということもあって幼い頃から顔を突き合わせており、今は同じマンションで暮らしている。
「ねーえ、ばいきんまん」
甘い声音に、びくりとハンドルを握る手を振るわせる。嫌な予感がする。おそるおそる助手席を見やれば、にっこりとどきんちゃんが笑っている。
「この間作ってた機械、もう完成した?」
「・・・・・・した、けど」
「じゃあもう企業に売って金は入ったわよね? 新しいネックレス買って。ピンクダイヤの可愛いやつ」
この間すっごく可愛いの見つけたの、と力説されるが、己の予感が中ってしまったことに、ばいきんまんは肩を落とした。
「どきんちゃーん・・・・・・。ネックレスならこの前買ってあげただろ?」
「あれはあれ、これはこれ! ね? 今日の夕飯、ばいきんまんの好きなパスタ作ってあげるから」
「・・・・・・はぁ。店、どこ?」
「次の交差点を右。ありがとう、ばいきんまん! 愛してるわっ!」
身を乗り出されて、頬にちゅっとキスをされる。柔らかいし良い匂いがするなぁ、と考えた自分をばいきんまんは慌てて消去した。確かにどきんちゃんは美人だし可愛いけれど、彼女に落ちたら財布がいくつあっても足りない。今の時点でも十分財布代わりになってしまっている己を振り払って、ばいきんまんは交差点を右に曲がった。
俺様の人生は一体何処で間違ったんだと、日に一度は思ってしまう彼なのだった。





・ ばいきんまん / 天才発明家だが、あんぱんまんへの敵愾心から検察官を目指すことになってしまった不憫な青年。黒スーツが通常装備。顔はいいが、どきんちゃんに弱い。
・ どきんちゃん / 容姿端麗スタイル抜群の才女。ミス・キャンパス。しょくぱんまん様に恋をしているが、いまいち強くアタック出来ない女の子。高校三年のめろんぱんなちゃんとメル友。
・ あんぱんまん / 困っている人は見捨てられない正義の味方を目指す青年。ばいきんまんのことも普通に友達だと思っており、いささか鈍い面がある。しょくぱんまんと高三のかれーぱんまんとは下宿が一緒。

2007年10月9日