高い本棚に囲まれたテーブルで、顔を見合わせて「おはよう」と言う。
昼は中庭にあるベンチに座って、バスケットに詰められたサンドイッチを二人で食べる。紅茶を注いでもらって。
午後はページをめくる音と、ときどき混ざる囁き声での会話。たまには小さな寝息も。
夕暮れの通りを並んで歩く。他愛ないことを話して笑って。
また明日、と言って別れる。
レヴィヤタン
「可愛らしいガールフレンドが出来たそうじゃないか」
執務室のドアを開けるなりそう言われ、エドワードはあからさまに顔を歪めた。
珍しく机に向かい書類を手にしている男は、仕事中とは思えないほど楽しそうな笑みでこちらを見ている。
後ろでは彼から書類を受け取ったホークアイが、相変わらずのポーカーフェイスを浮かべたまま執務室から出て行った。
エドワードは持っていた紙袋をソファーに放り、自身もそこに乱暴に座った。
「別に、あいつはそんなんじゃねぇよ」
「『あいつ』・・・か。まるで連れ合いを呼ぶかのようだな」
「俺は所帯を持つ気はない」
心底不愉快そうに言い捨てるエドワードに、ロイは口元だけで緩く笑う。
金色の髪を持つ彼と、黒髪を持つ少女。
先日仕事帰りに偶然見た二人の姿は、ロイの目にとても似合いの二人に見えた。
まるで普通の子供のように笑い、話すエドワード。そして、何より。
「―――彼女は、全身で君が好きだと言っていたよ」
見つめる視線、姿を映す瞳、綻ぶ唇、軽やかな声。
すらりと伸びた足が開く歩幅、白い手が持つバスケットの揺れ方。
ワンピースの裾をはためかせ、そこにいる少女の存在が、細胞の全てが。
『エドワードのことが好き』と、ロイには訴えているように見えた。
「可愛らしい恋情に、男なら少しは応えてやったらどうだ?」
笑みを交えて言えば、沈黙をもってして拒否される。
ソファーの端に行儀悪く足を乗せているエドワードの表情は、ロイからは見えない。
けれど小さな呟きが聞こえて、思わず聞き返した。
「鋼の?」
「・・・・・・大佐」
それはとても小さな声で。
「レヴィヤタンって知ってる?」
東方司令部で必要な書類を受け取り、その足で図書館へと向かう。
今日は予め遅くなると言っておいたから、見慣れたテーブルにレヴィの姿はなかった。
椅子を引いて腰掛け、分厚い本の表紙を開く。
斜め読みで内容を頭に叩き込んでいるエドワードの背に、午後の柔らかな日差しが照りつけていた。
「・・・・・・エド?」
いつものテーブルまで歩いてきて、レヴィは金色の髪を見つけた。
日の光で一層輝いているそれが、今は本の上に散っている。
まるで光の洪水のような様子にレヴィは小さく微笑んだ。
足音を立てないように近づき、うつぶせになっている寝顔を覗き込む。
鼻にかかっている前髪がくすぐったそう、と指を伸ばしかけて。
・・・・・・止めて。
細く白い指先が震え、きゅっと一度握り、そして開いた手でゆっくりと金糸に触れた。
おそるおそる髪をかき上げる仕種は怯えているのではない。
レヴィの頬が、夕焼けのせいではなく朱色に染まる。
黒い髪が小さな音を立て、長い睫が静かに伏せられ。
引き寄せられるように身を屈めた。
一瞬の口付けはひどく熱くて、泣きそうになった。
2004年9月22日