朝はおはよう、と挨拶して。
昼は一緒にお弁当を食べて。
午後は他愛ない話をしたりして。
夕方は並んで家までの道を歩く。
また明日、と笑顔で別れる。

そんな関係になれたら。





レヴィヤタン





「せ、せ、せ・・・・・・『生物学における実績と懐疑』・・・」
背の高い本棚と向かいながら、エドワードは本の題名を呟く。
金色の眼を右から左へさっと走らせ、目当ての背表紙がないのを確認し、もう一段上の並びに目を通す。
分厚い本たちは、その難しさゆえか読み手を選ぶらしく、大体のものが埃を被っている。
だが、エドワードにとってはどれも必要なものだった。この鋼の手足と、そして弟を元に戻すために。
「―――っと」
文字を追っていたエドワードの目が、一冊の本を捉えて喜色に変わった。
「あった」
手袋に包まれた手を伸ばす――――――が。
「・・・・・・・・・」
ブーツの足で背伸びをする――――――が。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
右手で棚を掴んで、左手の指を限界まで伸ばす――――――が。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ふざけんな、とエドワードが八つ当たり気味に叫びかけたとき。
スッと横から出てきた白い手が、背表紙に指をかけて静かに本を攫っていった。
取ろうとしていたものが目の前で横取りされ、エドワードはパッと振り向く。
そこには少女が一人、本を差し出して立っていた。
「はい、どうぞ」
「・・・・・・ども」
自分が取れなかった高さの棚を、少女に取られてしまった。
それを考えると受け取るのはプライドが邪魔したが、本が欲しかったのも事実。
悔しさと感謝が混ざり合った顔でエドワードが礼を述べると、くすくすと小さな笑い声が聞こえてくる。
少女の黒髪がさらりと音を立てる。赤い唇が楽しそうに弧を描いていて、エドワードは思わずその笑みに見入ってしまった。
髪と同じ色の大きな瞳が、エドワードの金色の眼と出会う。
一瞬の視線の遣り取りで釣られるように二人は笑い合った。



「ふーん、エドワードっていうんだ」
並ぶ本棚の間に、少女の明るい声が響く。
利用者の少ないジャンルであるそこは、多少の話し声があっても咎める者はいない。
「ああ。おまえは?」
「あたしはレヴィ。今年で15歳」
「俺も今年で15」
「そうなの? その割には・・・・・・」
ちらり、とレヴィの視線が自分の頭に向けられるのに気づき、エドワードはムッと眉を顰める。
初対面の、しかも少女だから、と何度も何度も自分に言い聞かせて。
それでも不機嫌に低くなる声は止められなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・いいんだよ。これからでかくなるんだから」
「―――うん、そうだね」
その声はとても柔らかく、優しい響きを帯びていて。
エドワードは顔を上げる。

「エドはきっと、すごくかっこよくなるよ」

声よりも綺麗に微笑んだレヴィの言葉は、エドワードの心にゆっくりと溶けていった。





2004年9月16日