Dear Roy Mustang.





金色の記憶





こんにちは、マスタング大佐。ご健勝でいらっしゃるでしょうか。
あんたに手紙を書くなんて報告書以外じゃ初めてだよな。何かちょっと変な感じだ。
いつも「君は字が下手だ。もっと丁寧に書きたまえ」ってあんたは言うけど、今回くらいは見逃せよ。
たぶん。いや、きっと間違いなく、これが俺の書く最後の手紙になるだろうから。
これで俺の下手な字とオサラバ出来るぜ? 良かったな、大佐。
俺もあんたに馬鹿にされなくて済むかと思うと清々するよ。

伝えたいことが沢山ある。だけど本当に多すぎて、何から言えば通じるのか判らない。
だから、結論から書くことにする。



俺は、明日死ぬ。



ごめん。訳の分からないことばっか書いてるよな。
こんな手紙をもらったって大佐も困ると思う。だけど、あんた以外に頼める相手が思いつかない。
悪い。本当に。俺、あんたに迷惑かけてばっかだ。
だけどこれで最後だから。だからどうか読んで欲しい。



俺とアルは、ホーエンハイム・エルリックに会った。
大佐に教えてもらった情報を元に石を探していたら、俺たちはアイツに行き当たった。
あんな奴なんか会いたくもないと思ってたけど、でもアイツに行き着いてしまったんだ。
軍もアイツを探してるって言ってたよな? だけど、場所は言えない。そういう約束だから。
俺とアルはアイツに会って、アイツが賢者の石の研究をしてることを知った。
本当はずっとそうじゃないかと思ってた。リゼンブールにはアイツの残した資料が山ほどあったし、それらは全部一つのことしか示してなかったからだ。
あんたも分かってたんじゃないかと思う。

アイツは、賢者の石を作るのと共に人体錬成についても研究していた。

俺とアルがアイツに会ったときには、もうその研究は最終段階に入っていた。
後は人柱を投入するだけで石は完成するし、それで出来上がった石さえあれば人体錬成も簡単に出来るらしい。
アイツはもうその段階まで入ってた。
後は人柱だけだった。

アイツが言うに、俺はアイツの最高傑作らしい。
だから俺一人で賢者の石が作れる。俺が人柱になれば、アルを錬成して戻してくれる。
アイツはそう言った。俺はそれを受け入れた。

だから俺は、明日死ぬ。

あんたはきっと「馬鹿」って言うんだろうな。「君が犠牲になってアルフォンス君が喜ぶとでも」って言うと思う。
だけど俺にはもうこの手しかない思い浮かばない。俺が人柱になればアルの身体は元に戻るんだ。これ以上に望むことなんてない。
賢者の石の製法は俺には到底出来ないものだし、きっとこれからも俺はその製法を試すことはないと思う。
だからもうこれしかない。人柱になるのは俺だけで十分だ。だから。



俺はアイツに条件を一つ出した。
俺がいなくなった後、元の身体に戻ってもアルが苦しんだら意味がない。
だから、俺は俺に関する記憶を全部消すようアイツに要求した。
そうすればアルは悩まずに済むし、ウィンリィや他の奴らも苦しまずに済む。
賢者の石があれば、そういうのも簡単に出来るんだってさ。本当にスゴイよな。さすが俺たちの求めていた石だよ。
だけど、やっぱりそれにも例外はあるらしくて。

力のある錬金術師の記憶は、どうやっても弄れないらしい。

だから多分、大佐の俺に関する記憶はなくならないんじゃないかと思う。あ、でもこれは多分な?
大佐、もしかしたら「力のない錬金術師」かもしれねーし、そのときはこの手紙は意味のないものになっちまうけど。
とりあえず大佐の力を信じて、書き続けることにする。
たぶん、大佐やアームストロング少佐、それと師匠の記憶も変わらないんじゃないかな。
だけどアルの記憶は全部俺のいなかったものに摩り替わるから、だからそのつもりでいて欲しい。
アルは元の姿に戻ってリゼンブールに帰る。ウィンリィやばっちゃんも俺のことは覚えてない。
母さんを錬成したのもアルの記憶からはなかったことになる。
アルは一人っ子で、母さんが死んでからはウィンリィたちと暮らしていて、師匠に会って錬金術を学ぶ。
それで修行から帰ってきて、またリゼンブールで暮らしだす。
そういう風にアルの記憶は変わる。ウィンリィやばっちゃんたちの記憶も変わる。
だから、大佐や少佐、中尉たちとアルの間には一切の関係がなくなる。そのつもりでいてほしい。
こんなことを頼むのは本当に馬鹿げてると思う。だけど頼む。
アルには幸せになってほしいんだ。幸せを掴む権利が絶対にある。
馬鹿でも何でもいい。大佐には本当に悪いと思う。
だけど頼むから、このまま俺を逝かせてほしい。



ごめん。俺、大佐に迷惑かけてばかりだ。
結局あんたの力になれなかった。むしろ足を引っ張ってばっかだったよな。
本当にごめん。最後まで我侭で。
・・・・・・・・・我侭ついでにもう一つ頼んでおこうと思う。もうここまで来たら一つくらい増えたって変わらないだろうし。
あ、でもやっぱ二つ頼む。
俺とアルの師匠の話、したことあるよな? 南部のダブリスで肉屋をやってる、イズミ・カーティスっていうんだけど。
その師匠に、事の事情を話して欲しい。出来ればこの手紙が届いたすぐ後にでも。
この手紙は石が完成してアルが元に戻ったのと同時に、大佐の元へ届けてもらうことになってるから。
アルがリゼンブールに帰って、その後いつ師匠のところに行くか分からないから、出来るだけ早く師匠に事情を話して欲しいんだ。
師匠が俺のことをアルに話したりしたら元も子もないしさ。
一応ダブリスまでの旅費を同封しとく。
頼むよ、大佐。あと、それともう一つ。

出来れば俺のいなくなった後、アルのことを見ていてほしい。

アルが俺のことを思い出していないか。それだけでいいから、注意しててほしいんだ。
アルは大佐のことを覚えてないから、出来るだけ怪しまれないようにっていうのにも無理があると思うけど。
でも、頼む。頼んでばっかだけど、どうか。
お願いします。



大佐、今までありがとう。迷惑かけてばかりだけど、あんたには本当に感謝してる。
今まで色々悪口も言ったし、憎まれ口も利いたけど、でもそれは全部大佐が相手だったからだと思う。
俺はきっと役にも立つことが出来ただろうに、こんな形で終わってごめん。最後まで迷惑かけて本当にごめん。
勝手な言い草だけど、俺は大佐にも幸せになってほしいと思ってる。
大総統になる野望、協力できなくてごめん。でも絶対に諦めるなよ? 俺は、大佐は大総統になってもいい器だと思ってるから。
あくまで俺が思ってるだけだけど。
うん、でもまぁ、頑張れよ。
頑張れ。

これ以上書くと、書かなくていいことまで書きそうな気がする。だからもう終わらせる。
大佐、アルを頼む。俺が言いたいのはそれだけだ。
今までありがとう。それと、ごめん。だけど俺は後悔なんかしない。
じゃあな。大佐も元気でやれよ。大総統にもなっとけ。
じゃあ。

さよなら。



From Edward Erlic.



大佐、俺まだ生きていたい
俺のことを覚えててくれる人が大佐でよかった。
本当にありがとう。





2004年7月7日