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ぴゅうっと風が吹いて、エドワードは首を竦めた。
「・・・・・・さみぃ」
「大丈夫? 兄さん」
「ん、だいじょーぶ」
赤いコートの襟を引き寄せて首をすっぽりと埋める。
心配そうに覗きこんでくるアルフォンスに、手を振りながら苦笑して。
「へーきだって」
北風がエドワードの三つ編みを揺らす。
カサカサと音を立てて枯れ落ちた葉が空を舞った。
各地を旅しているエルリック兄弟の元にも、冬が訪れようとしていた。
冬のソナタ
あみあみ。
あみあみあみ。
あみあみあみあみ。
あみ。
あみあみ。
・・・・・・・・・。
しゅるしゅるしゅるしゅる。
あみあみあみあみあみあみあみあみ。
「・・・・・・何やってんスか、あの人は」
それはものすごく呆れながら。
むしろ煙草の灰を落とすのを優先して、ハボックは無理やりにソレから視線を反らして尋ねた。
彼の向かいの机ではホークアイが書類にペンを走らせていて、例のモノには視線の欠片も寄越さない。
「見れば判るでしょう」
「・・・・・いえ、判るっちゃあ判るんスけど」
「むしろ判らない方が幸せでしょうね」
キッパリとした言葉にハボックが苦笑する。
処理し終えた書類を脇にやりながら、ホークアイは深く大きな溜息をついた。
「だけど今日の分の仕事はちゃんと終わっているから、文句を言う理由もないのよ」
残念だけど、とかなり本気で言われた言葉に苦く笑って。
そして二人してチラリと視線を横に走らせる。
上座のデスクでは、彼らの上司であるロイ・マスタングが必死に編み棒を動かしていた。
黒をベースにして、黄色と青が少しずつ混ざっている。
ザクザク編まれていくマフラーとは逆に、毛玉は着々と減っていく。
そんなロイの机の上には、すでに完成している手袋があった。
ミトンではなく五本指のそれは、マフラーと同じ色をしたセットのもので。
ものすごいスピードで編み棒を動かす上司を、ハボックはボケーッと眺めた。
「・・・・・・大佐」
「話しかけるな。今は忙しい」
あみあみあみあみ。
一心不乱にマフラーを編み上げながら、ロイは片手間に答える。
けれどそれぐらいで引くようでは、彼の部下などやっていられない。
ハボックは上司の言葉を無視して話しかけた。
「何で黒なんスか? 大将なら黄色とか赤の方が似合うと思うんスけど」
「――――――ふっ」
鼻で笑うロイに、「うわ」とハボックとホークアイは内心で思った。
絶えず動かしていた編み棒を止めて、ロイは得意げに理由を述べる。
「黒は、私の色だからだ」
マフラーと同じ色の髪を手でかきあげながら。
「・・・・・・じゃあ黄色は」
「鋼のの色だ」
「青は」
「私の軍服の色だ」
「俺たちの軍服も青なんスけど」
「今すぐ染め直して来い」
無茶苦茶だ、と二人は思った。
ロイは再び編み棒を動かし始める。
そういえば、とハボックは思い返した。
そういえば、最近のロイは軍服に黒のコートだけではなく、マフラーと手袋をして仕事に出ている。
確かその色は、黄色がベースの黒と赤だった気が。
それは何か、つまり先ほどの基準から言うとこうか。
黄色=エド色
黒=ロイ色
赤=エドのコートの色
「・・・・・・・・・救い様もない・・・」
「愚かというのよ、こういうのは」
冷ややかにホークアイが評するのも聞こえずに、ロイはマフラーを編みつづけている。
おそらくこれが数日の内には完成し、エドワードの元へと送り届けられるのだろう。
各地を放浪しているため場所が判らないなんてことは、ロイに限ってあるわけがない。
己のためなら権力を行使する事だって厭わない男なのだから。
しかも、丁度いいことに彼の親友は調査部の人間でもあって。
「でも、果たして大将が大人しく使うんスかね・・・・・・?」
疑問を感じてハボックは呟いたが、ホークアイは逆に唇を緩めて笑った。
「使うと思う?」
苦笑することでハボックは答えを返した。
ロイは今も頑張ってマフラーを編んでいる。
「はい、兄さん」
ふわっと首にかけられた柔らかい感触に、エドワードは驚いて顔を上げる。
目の前には鎧姿だけれど、照れたように笑っているアルフォンスがいて。
視線を下げれば、白のマフラーが自分の首に巻かれていた。
「兄さんは温かくしなきゃ」
「アル・・・・・・」
「そこのお店で売ってた、あんまり高くないものなんだけど」
ううん、とエドワードは首を振る。
生身の左手の手袋を外してマフラーに触れると、やはり柔らかな熱が伝わってきた。
弟を見上げて、エドワードは微笑む。
「さんきゅ、アル」
寒さなんかに負けない笑顔で、二人は笑った。
後日、泣く人がいるなんてことは全く知らずに。
このお話は月城恵夢様に献上しました。
2003年12月23日