好きじゃないって言ったら笑われた。
なんでか、アルに。
後悔はお早めに
そのときエルリック兄弟は東部へ行く列車を待って、駅のホームで会話をしていた。
また今回もガセネタだったな、なんて兄が言って。
次こそ本物だといいね、なんて弟が言って。
ほのぼの会話をしているときに、何故そんな流れになったのかは知らないが、アルフォンスが尋ねたのだ。
『兄さん、大佐のこと好きでしょ?』――――――と。
なのでエドワードは答えた。
『別に好きじゃないけど』
嘘も見栄も意地も見当たらない、いたって普通の表情で。
「嘘つかないでよ、兄さん」
笑いながら訂正を求める弟にエドワードは首を傾げる。
「嘘なんかついてねーよ。俺は別に大佐のことなんか好きじゃない」
「じゃあ何で東部に行くといつも大佐のところに行くの?」
「そりゃ俺がムカツクけど大佐の監視下にいるからだろ。俺を国家錬金術師に推薦してくれたのは一応大佐だし」
「でも兄さんは東部滞在のたびに大佐の家に一泊はするよね?」
「あぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・?」
鎧姿ながらもジーッと見つめてくるアルフォンスに、エドワードは眉を顰めて怪訝な顔をする。
「アル?」
首を傾げるのと同時に金色の三つ編みが揺れて。
そんな兄の様子を見ながら、アルフォンスは一つの結論に至った。
(まさか大佐・・・・・・まだ兄さんに手を出せてないんじゃ・・・・・・?)
『出して』ではなく『出せて』のところがポイントである。
己の予想が本当なのか確かめるべく、アルフォンスは再度兄に尋ねる。
「兄さん、いつも大佐の家に泊まるときって何してるの?」
「何って」
思い出すように視線を彷徨わせてエドワードが答えた。
「飯食ったり、風呂借りたり」
「話とかは?」
「そりゃするけど」
「何を話すの?」
「別に道中のこととか軍のこととか。あ、ときどきは錬金術について討論したりもするけど」
「あ、それいいなぁ」
「じゃあ今度はアルも一緒にするか」
嬉しそうな顔で誘うエドワードについ頷きかけて、けれど慌てて首を振る。
「いいよ、僕が聞いても難しそうだし」
「そんなことないと思うけど」
「いいからいいから」
不思議そうに自分を見る兄にアルフォンスは苦笑した。
けれどここで邪魔をするわけにはいかない。
何たって、あの大佐とエドワードの2人っきりの時間。
邪魔したら焼かれそう、などと考えてアルフォンスは内心で笑った。
そして思う。そのときはエドワードを盾にしよう―――と。
(それにしても何で兄さんは気付かないんだろう。大佐が兄さんのことを好きだなんてバレバレなのに)
たびたび立ち寄る東方司令部での接待ぶりを思い出してアルフォンスは溜息をつく。
今年29歳になる大佐、ロイ・マスタングの、あの兄に対する構い様。
それはちょっとまともに見てみれば、まるで年の離れた弟を可愛がる兄のようで。
そしてちょっと斜めに見れみれば、まるで年の離れた稚児を愛撫するオトナのようで。
前者だけならまだしも、圧倒的に後者の割合が高いところに周囲に溜息の原因があった。
そんなロイが、まだ兄に手を出していないだなんて。
アルフォンスは首を傾げる。
(大佐も男の人だから、好きな人に衝動を覚えないわけでもないだろうし・・・)
目の前でユラユラ揺れる三つ編みを眺める。
(どっちかって言うと、兄さんが気付きつつも交わしてるんだったりして・・・)
列車が来るのを背伸びして待っている兄を眺める。
(大佐って女の人に慣れてるって聞いてたけど、意外と甲斐性がないのかも・・・)
本人が聞いていたら憤慨しそうなことを考えながら、アルフォンスはもう一度兄に尋ねた。
「ねぇ兄さん、大佐のこと好き?」
「だから別に好きじゃないって」
「うん、判った」
アルフォンスの心は決まった。
「じゃあ兄さん、今回は大佐の家に呼ばれても行かないでね。たまには僕と討論しようよ」
「アルとか?いいぜ、久し振りだしな」
「うんじゃあ決定」
アルフォンスの嬉しそうな声にエドワードも同じように笑う。
やっぱり14年間をずっと一緒に生きてきた絆は伊達ではなくて。
(すみません、大佐)
ようやく見えてきた列車を見ながら内心でアルフォンスは謝った。
知り合ってから3年経つのに、まだ告白も出来ていない三十路間近の大人に向かって。
(でも大佐が悪いんですからね?せっかく石探しに協力してもらっている間は、僕も大佐に協力しようと思っていたのに)
その結果が、今この現在の状況。
「兄さん」
「ん?」
列車に乗り込もうとしていたエドワードが振り返る。
「兄さんは、大佐なんかに渡さないからね」
一瞬驚いた後、照れたように苦笑する兄にアルフォンスも笑った。
そしてもう一度謝罪する。
(ごめんなさい、大佐)
そして一緒に列車に乗り込んで、兄弟仲良く隣合って席を取った。
(僕の大好きな兄さんは、やっぱり大佐にもあげられないんです)
それは、ロイにとって絶対に勝てない敵が出来た日だった。
2003年11月17日