あるところに赤いずきんを被った可愛らしい女の子がおりました。
少女はみんなに『赤ずきんちゃん』と呼ばれていました。




「兄さん、コートの裾がほつれてるよ」
弟のアルフォンスに指摘されて、エドワードはくるりと身を翻す。
その拍子に赤いコートの裾がヒラリと舞って。
「マジ?うわぁ・・・このコートもいい加減古いし、新しいのを買おうかなー」
「でも兄さんにはやっぱり赤が似合うと思うよ」
「そうか?」
こんな感じで、始まり始まり。





童話・エドずきんちゃん





ある日、赤すきんちゃんはお母さんにお使いを頼まれました。



「じゃあ兄さん、ちゃんと中佐に渡してね。お礼も言うんだよ?」
アルフォンスが差し出してくる紙袋をエドワードは渋い顔をしながら受け取った。
「わーってるって。ったく俺の方が兄なのに・・・」
「エリシアちゃんとグレーシアさんにもよろしくね」
「あぁ。アルはこのまま宿にいるんだろ?」
「うん、そのつもり。図書館で借りた文献を全部読んじゃおうと思って」
「じゃあ行ってくる」
「うん、気をつけてね。寄り道しないでよ」
セントラルに来るたびにお世話になっているヒューズ家族にお礼をしようと、エルリック兄弟は旅先で見つけた美味しいお菓子を買ってきたのだ。
こうしてエドワードは弟に見送られ、紙袋を手に宿を出たのだった。



赤ずきんちゃんは、おばあさんの家に行く途中で狼に声をかけられました。



「おや鋼の。どこに行くんだい?」
本来ならばセントラルにいるはずのない人間の声を聞いて、エドワードは思わず振り向いた。
青い軍服に身を包んだ背の高い男を視界に収め、自然と不機嫌になる。
「・・・・・・何で大佐がこんなとこにいるんだよ」
「ちょっと仕事でね。鋼の、時間があるならお茶でも一緒にどうだい?」
「悪いけど俺、これから中佐のとこに行かなくちゃいけないから」
エドワード、寂しそうな年上の男を残して華麗に退場。



狼は赤ずきんちゃんを食べるため、おばあさんの家に先回りすることにしました。



「ヒューズ!」
バタンッという大きな音を立ててヒューズ家のドアが開かれた。
本日は非番だったマース・ヒューズはソファーで新聞を読みながら来訪者を出迎える。
「あぁ?どうした、ロイ。おまえ仕事じゃないのか?」
「そんなものは関係ない!今すぐ俺に食われろ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おまえ知らないのか?ここの管理人はヒューロイでもロイヒューでもなく、エド総受けなんだぞ?」
「そんなことは私も知ってる!誰が好き好んでオマエを食うものか!」
「だったらなぁ・・・」
「いいから代われっ!もうすぐ鋼のがここに来るんだ!」
真顔で言いきった三十路手前のロイ・マスタングにヒューズは思わず溜息をつく。
「・・・・・・オマエそんなんだから管理人に好き勝手に扱われてんじゃねぇか?」
「なっ!ヒューズ、さてはオマエこの日記にいくつロイエド小説があるか知らないな!?」
「その中でオマエが幸せなのはいくつあったんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(A:2003年11月11日現在で管理人的に1つです)
ふるふるとロイの軍服が小さく震えて。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあんん!!!」
――――――ぱっちん



赤ずきんちゃんがおばあさんの家に辿りつくと、そこにいたのはおばあさんの振りをした狼でした。



「・・・・・・・・・つーか中佐は?」
「あぁ、ヒューズなら急用を思い出したとかで私に留守番を頼んでいったよ」
「あっそ。じゃあこの焦げてる絨毯は何?」
エドワードは真っ黒になっている絨毯をつま先で示す。
それにロイはニッコリと笑って「さぁ」と答えた。
「っていうか大佐、何でここにいんの?」
「それは鋼のに会いたかったからだよ」
「何で俺に会いたかったの?」
「それは鋼のが好きだからだよ」
「何で俺のことが好きなの?」
「・・・・・・・・・言ってもいいのかい?」
エドワードは思わず背筋が震え、ロイから一歩遠ざかった。
けれどロイがその一歩を詰め、歩幅の違いから二人の距離が縮まる。
そっと頬に寄せられた手の熱さにエドワードがビクッと反応して。
「鋼の・・・・・・」
ロイの顔が近づく。



狼に食べられてしまいそうな赤ずきんちゃん!
そんな少女を救ったのは猟師でした。




ドンッ
ドンドンドン
パララララララララ

銃声が響くと同時にロイの周囲を弾丸が通り過ぎた。
パタンと、リビングのドアが開く。
凍りついたロイの腕から抜け出してエドワードが振り向くと、そこには既知の存在が立っていて。
「あ、中尉」
「こんにちは、エドワード君。何もされてない?」
「うん、平気。サンキュー」
ホークアイはエドワードに向けていた微笑を一転すると、いまだに凍りついたままの上司へと視線を向けた。
「大佐、こんなところで何をしていらっしゃるのですか」
「・・・・・・・・・・・い、いいいいいいいや」
「今回のセントラル滞在は予定がぎっしり詰まっていると言ったはずですが」
汗だらだらのロイを眺めながら、ホークアイについてきたハボックは頭を掻いて。
「どーぞ、中尉」
「ありがとう。・・・大佐、食べてしまったヒューズ中佐を返してください」
キラリとホークアイの手の中でメスが光る。
手術用のハサミやら何やらがハボックの手の中でスタンバイしていて。
ロイはサーッと青褪めた。
「・・・・・・・・ご、ご誤解だっ!私はヒューズなんか食べてない!このスマートな腹を見ろ!」
「見たくもありません。じゃあ違う意味で『食べた』んですか?」
「だからここの管理人はエド総受けだと―――っ!」
「問答無用です」
再び銃声がヒューズ宅へと響いた。



こうして赤ずきんちゃんは無事にお使いすることが出来たのでした。



「はい中佐。これ俺とアルから。いつもお世話になってるお礼に」
「お、なんだなんだ?ガキが気ぃ使うなよ」
「いいから受け取っとけって」
断末魔を背景にヒューズが紙袋を受け取る。
「またセントラルに来たら寄れよ。グレーシアとエリシアも待ってるしな」
「うん、ありがと」
ニッコリと二人は楽しそうに笑いあって。
断末魔はまだまだ響き渡っている。



めでたしめでたし。



「・・・っていうかー俺の出番は?オチビさんを救うのは普通俺の役目じゃん?」



ありません。





2003年11月11日