最近、夢見が悪いんです。
<case1>
「兄さん・・・っ」
振り向いた少年の目から涙が零れ落ちた。
鎧姿のときには見ることの出来なかった雫。
エドワードは自身も泣きそうになって、錬成陣の中へと走りよる。
「―――アルっ!」
「兄さん!」
抱きしめた体は温かかった。ずっと感じたいと思っていた熱。
きつくきつく抱きしめて。
涙が零れた。
「―――というわけで大佐!俺たちはリゼンブールに帰るから!」
満面の笑みで笑うのはエドワード・エルリック。
その隣で兄よりも少しだけ大きな身長で笑うのは、ようやく生身の身体に戻れた弟のアルフォンスで。
「今までお世話になりました!」
「俺の身体は戻ってから直そうと思ってさ!これからはアルと二人でのんびり暮らすんだ!」
「今までの分も兄さんと一緒に遊んだりしてね」
「あぁ!またあの場所に家を建てて一緒に暮らそうぜ、アル!」
「うん、兄さん!じゃあ大佐、お元気で。本当にありがとうございました!」
「大佐も大総統目指して頑張れよー!もう二度と会うこともないと思うけど元気でな!」
「僕と兄さんも二人で幸せになりますから!」
「じゃーなー!」
幸せそうに手を繋いで去って行く姿。
「鋼のおおおおおぉぉぉぉお!!」
ちゅんちゅんちゅん
外では朝を知らせる鳥の歌声。
ベッドの上で真っ青な顔をしてロイ・マスタングは目を覚ました。
<case2>
「ふははははは!オチビさんは貰ったぁ!」
「きゃあああああ!助けて、ロイっ!」
「鋼のー!」
エンヴィーの腕の中で涙に濡れながら助けを求めているエド。
白いヒラヒラのワンピースの裾が空中ではためいている。
「鋼の―――っ!!」
ロイの叫び声は虚しく、攫われていくエドの姿は小さくなっていった。
全体的に暗い城の中でエンヴィーが嬉しそうにエドを抱きしめている。
「だからさぁ、オチビさん。大人しく俺のモノになっちゃいなよ。幸せにするよ?」
「やだっ!俺にはロイがいるもん!」
「どこがいいの?あんな焔の錬金術師の。あんなの仕事はサボるし女は口説くしおまけに無能で不能のロクデナシじゃん」
「・・・・・・でもっ!」
「俺は、ずっとオチビさんだけを見てるよ・・・?」
突然向けられた真剣な眼差しにエドの胸が大きく高鳴る。
そのまま近づいてくるエンヴィーの端整な顔立ちに見とれてしまって、自然に目を閉じた。
重なる唇が柔らかくて、ドキドキして。
「・・・・・・大切にするよ」
キスの合間に囁かれて、エドは吐息をもらしながらエンヴィーの背に腕を回した。
「待ってくれ鋼の!私が悪かった!」
ガチャッ
本来は静かなはずの執務室に撃鉄を起こす音が響く。
一瞬の間の後、容赦ない銃弾が寝起きのロイ・マスタングを襲った。
<case3>
「こんにちはー」
「おや、鋼の。東部に来てたのだね」
「まぁね。昨日から来てたんだけど、ちょっと用事があってさ」
執務室へ入ってきたエドをロイは笑顔で迎えてソファーを勧める。
片方は書類とにらめっこしながら、もう片方は図書室の資料を読みながら、ほのぼのとした時間が過ぎて行った。
ちょっと将軍の元へと呼ばれていて、ようやく帰って来たロイは執務室の扉が細く開かれているのに気づいた。
中にはどうやらエドの他にも人がいるらしく、小さな話し声が聞こえてくる。
「・・・・・・もっ・・・大佐、帰ってくる・・・」
「大丈夫よ、将軍が相手ならまだかかるわ」
「・・・で、も・・・・・・ん・・・っ」
飛んでくる猥らな声に背筋があわ立って、次いでロイは唾を飲んだ。
耳を澄ませば、ドアの向こうからエドの擦れた声が聞こえてきて。
「ぁ・・・やぁっ・・・・・・」
「ヤダ、じゃないでしょう?まったく可愛いわね、エドワード君は」
「中尉、ぃじわる・・・・・・っ」
「ふふ、そんな顔で言われても説得力がないわよ?」
ダラダラとロイの顔が汗で融け始める。
恐る恐る、しかし猫も殺すという好奇心と嫉妬の憎悪に焼かれて、ロイはこっそりとドアの隙間に顔を寄せた。
執務室の中、優秀な部下であるホークアイと、彼女の下にはロイの愛して止まない金糸が見えて。
「・・・・・・中尉・・・っ・・・だいすきぃ・・・」
一際高いエドの声が響いた。
「うわああああぁぁぁぁぁぁん!!」
静かなバーの隅っこで酔い潰れていたロイ・マスタングが奇声を発した。
その場にいた客やマスターは誰もがビクッと身を固まらせて。
東方司令部、もとい軍の明日は大丈夫かと考える。
最近、夢見が悪いんです。(BY ロイ・マスタング)
2003年11月10日