もしもロイとエドが結婚なんてしてしまったら、きっと旦那はエドになるのだろう、とはロイの親友である彼の言である。
ベッドでは違うだろうけど、などと付いてきた余計な一言は聞かなかった振りをしてエドは頷いた。
それはいともアッサリと。
「そんなの当然じゃん」
ロイ・マスタング、新妻の夢は見れない男である。
結婚における相互理解
「っていうか俺が家で大人しくしてるのって想像出来る?」
「いーや出来ねぇ。むしろ自分から外に行ってバリバリ仕事してくるタイプだな」
「だろー?だから俺が奥さんっていうのは無理。それならまだ大佐が奥さんの方が似合ってるって」
「アイツなら『お風呂にする?ご飯にする?それともワ・タ・シ?』とか素でやりそうだしなー」
「げっ!それって俺が『もちろんオ・マ・エ』とか言わなきゃいけない訳!?そんなのぜってぇゴメンなんだけど!」
「エドはむしろ食われる側だし?」
オヤジ的発言にエドは「セクハラー」と言いながらパンチを繰り出し、ヒューズはそれを笑いながら受け止めた。
年齢差は足りないかもしれないが、父子のようなコミュニケーションに周囲にいた人々は穏やかな笑みを浮かべて。
とりあえず、交わされている会話内容は置いておくとする。
「大佐って料理出来るのかな」
「野外炊飯なら出来ると思うぞ。散々実地でやったからな」
「えーそれって『男の料理』ってやつ?俺はもっとこう、お袋の味みたいなのがいいんだけど」
「そりゃ無理かもなぁ。でもオマエが一言言えば料理教室くらい通うんじゃないか?アイツのことだし」
「大佐のことだし?」
あははははは、という笑い声が東方司令部に響く。
それは話中の二人だけでなく、実はその会話を聞いていた部屋にいる人間達のものも混じっていて。
なんて朗らかな軍なのだろう、とアルフォンスは考えながら苦笑する。
その間にもエドとヒューズの会話は進んで行った。
「掃除と洗濯も大佐にやってもらってー」
「買い物とアイロンかけもだろ?それと子育てもしてもらわなきゃな」
「子供?そんなの誰が生むんだよ」
「ポジション的にはオマエだけど、やっぱ無理か。じゃあ養子でももらうか?」
「いーよ、そんなの」
「まぁ子供が出来たら出来たでロイの奴は子供にも嫉妬しそうだしなぁ」
「それに俺にはアルがいるし」
「お!こりゃあ絶対に勝ってこねぇ姑だな。でもってホークアイ中尉もついてくりゃ最高だ!」
「えー俺は中尉とは仕事の同僚とかがいいな。だってすごく頼りになるじゃん」
「あんま中尉に構うと妻が泣くぜ?『私と仕事とどっちが大事なの!?』ってな」
「そりゃ当然仕事だろ」
容赦のない一言と、かなりの確率でその台詞を言いそうな『妻』を思い返して、再び司令部に吹き出す者が続出する。
最強の姑と称されたアルフォンスは、やはり困った顔をしながらも嬉しそうに頷いていて。
とりあえず夫婦二人のみの結婚生活ではなく、姑も一緒の二世帯らしい。
「ほら、アル。姑の台詞は?」
「えっと・・・『あら、こんなに埃が』?それとも『このお味噌汁、ちょっとしょっぱいんじゃなくって』?」
「ぎゃははははは!『はい、お義母様、お砂糖』ってか?姑イビリには気をつけろよ!」
「大丈夫!母さんは俺が守るから!」
どうやら姑&夫VS嫁のようである。どちらが優勢かは言わずもがな。
東方司令部の面々は、「いくらあの大佐でも、こんな扱いの結婚はしないんじゃ・・・」などと考えてから、諦めに近い笑みを浮かべて首を横に振った。
彼らの思うところはただ一つ。
あの大佐なら、たとえどんな生活を送ることになっても結婚するに違いない。
だって相手はあの、彼の最愛のエドワード・エルリックなのだから。
そんなこんなで楽しい家族計画を立てていると、ようやくロイと彼の優秀な部下二名が仕事から帰って来た。
彼ら・・・というか、主にロイが部屋に現れるなり、噴出する者が続出。
彼らの頭に浮かぶのは、今まで話されていた『迫害される嫁』の姿だけである。
「・・・・・・・・・何なんだ、おまえたちは」
一様に自分から顔をそむけて肩を振るわせる部下たちにロイは訳が判らないながらも不愉快そうに眉を顰めた。
(ちなみにそんな彼の後ろでは、ホークアイとハボックがフュリー曹長から事の成り行きを聞いて小さく吹き出している)
とりあえずロイは状況の説明を求めて、ソファーでふんぞり返っている少年たちと親友を振りかえる。
――――――が。
「おい!夫である俺よりも後に帰ってくるとはどういう了見だ!妻は三つ指ついて玄関で出迎えるものだろ!?」
「おいオマエいつの時代の人間だぁ!?第一こんなゴツイ嫁に三つ指ついて迎えられた日にゃ俺は浮気するぜ!」
「兄さんはお寿司でもお土産に持って帰らなくちゃね」
返されたのは説明ではなく意味不明な言葉の羅列で。
ロイのその秀麗な顔に深く皺が刻まれるが、そんなものを気には留めずにエドは笑って言い放った。
「そんな出来そこないの嫁には三行半だぁ!」
今度こそ堪えきれずに爆笑し出した部下たちにロイだけが訳の判らぬ顔をして。
助けを求めて振りかえれば、説明を受けていたホークアイとハボックまで笑っている。
半ば泣きそうになりながらエドを見れば、これまたやっぱり楽しそうにヒューズと笑い合っていて。
ロイ・マスタング、仲間外れ。
彼の夢見る甘い新婚生活は、どうやら訪れないようである。
2003年11月6日