チョコレート
ケーキ
ワッフル
キャンディー
シュークリーム
ゼリー
マシュマロ
プリン
アイス
クッキーetc.

これがすべて君への愛だと言ったら、君は大口を開けて笑うのだろうか。





Honey, Honey, My sweet honey!





その日、東方司令部司令官執務室は甘い匂いで満たされていた。
部屋の中央に置かれている応接セットの上にあるのは、チョコレートを始めとする菓子・菓子・菓子・菓子の山。
その量は、思わず彼の部下であるハボック少尉が「・・・菓子屋でも始めるんスか?」と聞いてしまった程だ。
当然ながら答えは否。
ここにある山盛りの菓子はすべて、この部屋の主であるロイ・マスタングが彼の愛しい少年のために用意したものなのである。



「さぁ、鋼の。好きなだけ食べなさい」
「・・・・・・・・・食べなさいって言われてもな・・・」
げんなりとして肩を落としたエドワード・エルリックの言葉はもっともである。
というか、この状況を知っている者ならば、誰もがきっと彼の言葉に同意を示すことだろう。
それほど唐突に事が起こったのである。
(ちなみに今日の大佐の仕事はすでに終わっている。どうやらこの日のために最近はとても真面目に仕事をこなしていたらしい)
「どうした、鋼の。食べないのかい?」
首を傾げて尋ねてくる14も年上の男にエドは溜息を押し殺しつつ一応尋ねる。
「・・・・・・大佐、コレは何だよ」
「菓子だろう?それくらい見れば判るじゃないか」
「んなこと聞いてんじゃねえっ!何で俺がいきなり菓子を突きつけられて『食え』なんて言われなきゃいけないんだよっ!?」
ビシッと鋼の右手で指を突きつけられて、けれどもロイはいたって平然と答えを返す。
「鋼の、君は甘いものが好きだろう?」
「・・・・・・・・・そりゃ好きだけど」
「私は君の笑顔が見たい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから君の好きな菓子を用意した。ただそれだけのことだよ」
見事に勝手な三段論法に、エドは深々と溜息をついてしまった。
この男、処置なしである。



目の前にはニコニコと嬉しそうに笑っているロイ。
エドは居心地悪そうにしながらも、シュークリームへとぱくついた。
「美味しいかい?鋼の」
「・・・・・・んまい」
「そう、それは良かった」
ニコニコニコニコとまるで大量ワゴンセールのように笑顔を振りまくロイに、やはりエドは居心地悪くシュークリームを飲み込んで。
確かにどの菓子も有名店のものばかりを用意したのだろう。
このシュークリームだけでなく、チョコレートもマシュマロも、すべて上品な甘さと滑らかさを持っていた。
いくらかかったんだろう、とエドは内心で計算しながらアイスを口に運ぶ。
そしてロイが何も食べずにただ自分を見ているだけなのに気づいて、一応問い掛けた。
「大佐は食べないのか?」
「私は君の笑顔だけで十分だよ」
やっぱ聞かなきゃ良かった、とエドは思った。
そして今度はワッフルへと手を伸ばす。



しかし、人に見られながら食べるというのは、案外食べにくいものである。
エドは変わらず自分を見続けてニコニコと微笑しているロイに溜息をついて。
「・・・・・・大佐、見られてると食べにくいんだけど」
「あぁ、私のことは気にしなくていい」
「・・・・・・・・・気にするっつーの」
先程よりも深く、なおかつ態とらしく溜息をついてみるが、目の前の相手は変わらずに自分を見ていて。
仕方ない、とエドは肩を下ろした。
そして少しは減ってきた山の中から棒つきのキャンディーを探し出す。
ペリペリと包装を剥がすと、レモン味らしい黄色の飴玉が顔を出して。
エドはそれをロイの前へと差し出した。

「大佐、アーン」



そのときのロイの動揺をどう表現すればいいのだろうか。
とにかくロイは動揺した。その動揺が表情に現れない程に彼は動揺した。
まさかエドがこのように恋人らしい行為をしてくれるなんて思いもしなかった。
確かにロイは心中で「してもらいたいな」などと考えてはいたが、まさかそれが現実になるなんて。
果てしない動揺が、とりあえず機械的にロイの口を開けさせる。
エドはそれを確認すると、棒つきの飴をロイの口へと差し込んだ。
そして小さく笑って、軍服の襟を引く。



「等価交換、な」



誰も邪魔する者がいなくなったからか、エドはものすごい勢いで菓子の山を崩しにかかって。
そんな彼の前では、いまだに惚けたままのロイがボケッと飴玉を銜えている。
その顔は、まださっき行われたことが信じられていないようで。
甘い甘い匂いが執務室を満たしていった。



愛の代価は、このお菓子の山よりも甘いキスを、ほっぺに一つ。





2003年11月4日