欲しいものがある。
だから、いらない。

「大佐なんかいらない」

そう言った子供に、大人は困ったように小さく笑った。





君のために出来ること





初めて会ったのは子供が11歳のときだった。
再会したのは12歳のとき。
標準よりも小さいであろう体格に、鋼の手足を結びつけて。
小さく揺れる三つ編みを見てすぐに判った。
子供には求めているものがあるのだ、と。

そのための力に、自分はなれる。
幸いだと、思った。



それなのに子供は言う。



「大佐なんかいらない。俺は欲しいものは自分で手に入れる」
「・・・・・・つれないことを言うね、君は」
そんな言葉しか言えないのは、あまりにもショックが大きくて。
ショックを受けたということが、なおさら自分にショックを与えた。
いつの間に自分はこんなにも己惚れていたのか。
そんな大人から視線を外し、子供はまっすぐ前を見つめる。
「大佐は俺の許可して欲しい書類にサインだけしてればいいよ。それ以外の助けなんて必要ない」
「・・・それはあまりに扱いが酷くないか?」
「大佐だって俺の力が必要な時は使えばいい。だけどすべて等価交換だ。俺は、俺の望んだことに対する等価は必ずアンタに払うと約束する」
「・・・・・・私が君を助けたいと思うことは、君にとっては必要のないことなのかい?」
「あぁ、必要ない」
一言で斬り捨てて、子供は前を見続ける。
大人なんて視界に入れずに。存在なんて知らないと言って。

「他人の力なんて、当てにしない」



12歳にして国家錬金術師の資格を手に入れた子供。
大総統はもとより、その場にいた誰もが彼の尋常でない力を認めた。
『この子供は、優秀な軍の狗になる』―――と。

子供は知っている。
軍で自分に向けられる視線がどんなものか、ひそやかに交わされている言葉がどんなものか。
子供はちゃんと知っている。
『軍の狗としての自分』―――を。

欲しいものはこんなものじゃなかったのに。
ただ、優しい笑顔と温かな手が欲しかっただけなのに。
子供の願いは叶わなかった。
与えられたのは罪と罰。
前を向くことしか出来なくなってしまった、小さな子供。



そんな子供を愛しく思ってしまうのは、果たして間違っているのだろうか。



「同情なんかいらない」
子供は言う。前を向いたままで。
「同情なんかいらない。されても邪魔なだけだし、気分も悪い。アンタも俺なんかに構わないで自分の野望を目指せよ」
「・・・・・・そのために君が必要なのだと言ったらどうする?」
「言ったろ、すべて等価交換だ。でも俺はアンタのために死んだりなんか絶対しない」
ゆっくりと子供が視線を動かす。
前を向いていた瞳が隣に、横にいる大人を捕らえて。
金色の目が瞬きもせずに言い捨てた。



「俺は、俺の求める以上のアンタなんて、絶対にいらない」



欲しいものは温かな手足。
そして自分の唯一の肉親である弟の、抱きしめることの出来る身体。
望むのは、それだけ。
だからいらない。



「大佐なんかいらない」





2003年10月30日