愛は惜しみなく奪うものである。
エドワードのエは、○○○○○のエ
「たーいーさっ」
語尾にハートマークでも付きそうなくらいに弾んだ声が東方司令部へと響いた。
声変わりしてもまだ少し高い声の持ち主は、ここでは(色々な意味で)有名なエドワード・エルリック。
彼は金色の三つ編みを揺らしながら軽い足取りで部屋を横切り、この地区で一番権力を持つロイ・マスタングの元へと近づいた。
呼びかけに応えて黒髪の青年が珍しく格闘していた書類から顔を上げる。
「鋼の?東部に来ていたのかい?」
「うん、今日着いてね。駅から宿も取らないで走ってきちゃった」
アルは宿に先に行ってもらったんだ、と少年は言う。
「どうした?私に何か用でも?」
「・・・・・・うん。あのね、俺、大佐にお願いがあるの・・・」
エドが照れたようにはにかんで首を傾げる。
誰だコレは、とその場にいた誰もが思った。
「でも、こんなこと言ったら大佐は迷惑かもしれない・・・」
「そんなことあるわけないだろう?私は鋼のの為なら何だってしてみせるさ」
「ホント・・・?」
「あぁ、神に誓って本当だとも」
「嬉しいっ!大佐だいすき!」
キラキラとしたオーラを放ちながら約束するロイにエドは嬉しそうに満面の笑顔を向ける。
どうやら恋に落ちている愚か者(=ロイ・マスタング東方司令部最高司令官)は盲目なようである。
常とは180度違う可愛らしいエドに疑問を抱くこともなく、むしろ「可愛くて良い!」などと思っているようだ。
ハボックは二歩後ろに引いた。
さすがのホークアイ中尉もあまりの異常さに一歩後ろへと下がったほどだ。
そんな異世界へと片足を突っ込みつつある司令部で、エドは本当に可愛らしい、ロイに言わせれば「食っちまうぞ!」的な微笑を浮かべてロイを見つめる。
そしてその桜色の唇をそっと開いた。
「あのね・・・・・・」
掠れた声音にロイがごくりと唾を飲み込む。
エドの生身の左手がロイの腕へと触れた。
「俺、ね・・・・・・?」
見上げる頬が染まり、金色の目はうっすらと滲んで。
言葉を紡ぐ。
「俺、大総統のしてる眼帯が欲しいの!」
自分じゃない他の男の物を欲しがるだなんて、とロイは内心で叫んだ。
(そしてそんな彼の部下たちは、「つっこむところはそこじゃないだろ!」と叫んだ)
けれどエドは恥ずかしさからか顔をさらに赤く染めて、その頬に両手を添える。
「あのね、俺ね、どうしてもあれが欲しくって。大総統が肌身離さずにつけてるものだし、すごく難しいと思うんだけど、でも大佐なら出来るよね?大総統から奪って来れるよね?」
熱を帯びた瞳が一途にロイを見つめる。
「大佐しかいないの。俺・・・・・・大佐以外に、誰も浮かばなくって・・・・・・」
小さな手が、きゅっとロイの手を握った。
「ねぇ・・・・・・ダメ・・・?」
その小さな身体をロイの腕の中へと滑らせて、エドは囁いた。
「大佐が俺のお願いをきいてくれるなら・・・・・・俺、大佐に『行ってらっしゃいのチュウ』、してもいいよ・・・・・・?」
「私に任せたまえ、鋼の!」
あぁ、新しい上司を探さなくては、とホークアイ中尉は思った。
ロイ・マスタング大佐(降格の可能性大)に合掌。
そんな遣り取りからしばらく経った頃、東方司令部から失礼したエドはテクテクと通りを歩いていた。
「何バカなことしてるの、エンヴィー」
後ろからかけられた声にエドはニコッと笑顔を浮かべて振り返る。
「あらら、ラストのおばさん」
「焔の錬金術師が人柱になる前に使い物にならなくなったらどうするつもり?」
「さぁ?俺としてはライバルが一人でも減ってくれればいいかなーって思ってね」
エドは片口だけを歪めて楽しそうに笑った。
その瞳に浮かぶのは、いつもの強い意志ではなく、闇に染まった色。
エドの金髪がだんだんと黒に変わり、その背が少しだけ大きくなって。
「さてと、じゃあ俺は西部にいるオチビさんに会ってこようっと」
「バカ言ってんじゃないわよ。アンタはこれから北部で仕事」
「うっわ!その間にラストがオチビさんのとこに行く気だろ!?わーっ抜け駆け!」
「ウルサイ。さっさと行ったら」
シッシッと追い立てられて、エンヴィーは不貞腐れたように北部を目指す。
さっさとお役目を全うして、オチビさんのところに行こうと決めて。
チラッと寄越した視線の下では、焔の錬金術師が部下に止められながらも大総統から眼帯を奪う方法を考えている。
ニヤリと唇を歪めてエンヴィーは笑った。
「精々頑張れば?無能大佐サン」
想い人の愛を得る最高の方法は、ライバルを蹴倒すことである。
2003年10月26日