彼らは知らない。
どうすれば自由が手に入るのか。
どうすれば望みが果たせるのか。
彼らは知らない。
どうすれば二人一緒に幸せになれるのか、彼らは知らない。
おきざりの恋
エドワードがノックもせずに扉の中へ消えていくのを見て、アルフォンスは大きく溜息をついた。
まぁそれは鎧の体ということも手伝って、雰囲気だけのものだったのだけれど。
そんな少年の隣でホークアイ中尉もその綺麗な顔を少しだけ歪める。
切り詰められた想いは、見ている方が痛くなるから。
機械鎧で閉めた扉が、いま二人だけの空間を作り出す。
「やぁ、鋼の」
そう言ったロイの表情を彼の親友であるヒューズ中佐が見ていたのならば、きっと不愉快そうに眉を顰めたことだろう。
そんな表情をロイはしていた。
相手を見るようで見ていない、取り繕うだけの笑みを浮かべて。
それに気づいているのか。・・・・・・きっと気づいていて、エドは少し乱暴に報告書を放り投げた。
「これ、この前回ってきた仕事の報告書」
「あぁ、早かったな。もっとかかるかと思ったのに」
「別に。さっさと終わらせといた方が後も楽だし」
「ありがとう。確かに受け取った」
褐色の肌をした生身の手と、布に包まれた鋼の手が一瞬だけ机の上で交差した。
出来の良い報告書もエドにとっては電車の中で適当にまとめただけのもの。
どうしてなのだろうか、胸がざわりと音を立てて騒ぎたつ。
鋼の心臓か、生身の命か。
ロイは丁重に報告書を収めて、持っている情報を披露する。
「その対価というわけではないだろうが、新しい情報が入ってきてるぞ。何でも南部の方に不思議な力を発する石があるそうだ」
「不思議な力?」
「その石に触れた者はたちまち傷が癒えるらしい」
エドが握りこんだ拳が生身ならばありえない音を立てた。
彼は今与えられた情報がどうやってロイの元に来たのか知らないだろう。
ロイがどうやってこの情報を手に入れてきたのかも。
知らなくていいとロイは思う。
エドのために力を尽くしているということは、誰にも知られなくていい。
ずるい大人の表情をしてロイは笑う。
その気持ちの名を知っている。
自分が相手をどう思っているのかを知っている。
相手が自分をどう思っているのかを知っている。
だけど駄目だ。どうしても駄目。
駄目なのだということだけが判ってる。
この身を賭して求めるものがあるのなら、他は決して求めちゃいけない。
少なくとも彼らはそう信じている。
それが己を縛り付けていることを知っていて、それでもなお。
唯一の気持ちを、深く深く心の中で殺してる。
「・・・・・・気をつけて行っておいで」
微笑んだロイの表情は、エドを惑わせるのに十分なものだった。
浮かべた本人には自覚がないだろう、自慢の笑みが少しだけ綻びている。
エドの胸が震える。手を伸ばしたく思って、でもその手が人間のものじゃないと我に返って。
言葉に、出来ない。
「じゃあな、大佐も元気で」
小さく揺れるエドの三編みを見て、ロイは唇をきつく噛み締める。
言った本人には自覚がないだろう、手を振った姿が少しだけ諦観を帯びている。
ロイの胸が震える。この腕に抱きとめたく思って、でもその腕が彼を苦しめるだけだと我に返って。
認め、られない。
このループの出口はどこにあるの?
生身の身体を取り戻すのが先か。
抱き続けている野望を叶えるのが先か。
それとも。
言えなくて認められなくてひたすら殺してきた想いが、涙と一緒に相手を捕らえてしまうのが先になるのか。
違うところに立ちながらも二人は同時に笑った。
隠された想いを抱いて。
たった一つの言葉を置いて、前だけを見て走ってく。
2003年10月24日