絶対に認めないと決めている。
抱いている気持ちが何なのか、この劣情がどこから来るのか。
判っているからこそ認めない。
絶対に、認めたりなんかしない。
ろくでなしの恋
彼が来ているのだということは報告として聞いていた。
ならば間もなくこの部屋を訪れるだろう。何故なら彼の求めるものを持っているのは東方司令部で自分だけなのだから。
たった今出ていったばかりの中尉の声が細く開いている扉の向こうから聞こえてくる。
・・・・・・あぁ、来たな。
唇を吊り上げて笑みを形作った。
大人の笑みを。
「やぁ、鋼の」
久しぶりに会う子供らしかぬ子供に、自分は大人の顔をして笑うのだ。
「これ、この前回ってきた仕事の報告書」
適当に放られた書類を拾ってページをめくる。
お世辞にも読みやすいとは言えないけれど、そんじょそこらの人間には書けないほど整っている論文。
優秀で有能。まったく子供らしくない。
目の前の機械仕掛けの表情が変わるのが見たくて、手の中の情報ひけらかす。
「その対価というわけではないだろうが、新しい情報が入ってきてるぞ。何でも南部の方に不思議な力を発する石があるそうだ」
「不思議な力?」
ほら、変わった。こんなところだけ子供らしい子供。
その表情に滲むのは決して歓喜の念ではないけれど。
キシッと何かがぶつかるような音がして、少し考えて判った。
子供が手を握る音だ。
その、機械の右手を。
この気持ちの名を知っている。
この劣情の出所を知っている。
だけど駄目だ。認めない。
認めたりなんかしてやらない。
こんな可愛くない子供。
錬金術師でなければ気にもかけなかっただろう。
禁忌を犯して、身体の半分を鋼に変えて。
こんな人間じゃない子供に、こんな想いを抱いて堪るか。
笑顔を繕うのは慣れている。だから今はそれを使って見送ってやろう。
「・・・・・・気をつけて行っておいで」
「大佐こそ中尉たちに迷惑かけんなよ」
「・・・・・・君は私という人間をどんな目で見てるんだい?」
「言わなくても判るだろ?」
言葉に違わない生意気そうな顔で笑うから、本気を少し織り交ぜて不本意な顔を作った。
可愛くない子供。一度会う度に何度同じフレーズを唱えていることか。
それすらもきっとこの子供は知らないだろう。
そう、そのまま知らないままでいればいい。
欲しいものだけを追いかけて周りに目なんてやらなくていい。
振り向かないでいてくれれば、ずっとその背中だけでも見ていけるから。
「じゃあな。大佐も元気で」
「アルフォンス君によろしく。それとくれぐれも私の管轄内で事件を起こさないように」
「あーはいはい」
目的を果たすまでは殺しても死なないだろうけれど、「死なないように」なんて不吉すぎて言えない。
手を振る子供に適当に笑っておいた。
相手の顔は見ているようで見ていなかった。
小さな子供。小さな身体。この腕に抱き込んで潰してしまえそうなくらい儚く見える。
出て行く背中を見送って唇を噛んだ。
いつも思う。これが最後の挨拶になるかもしれない、と。
自分は軍人で、子供は罪人だから。
抱き続けている野望を叶えるのが先か。
破れ果てて地に臥すのが先か。
それとも。
私の君への想いが抑え切れずに暴れ出してしまうのが先になるのか。
大人らしくない考えに唇を歪めて笑った。
ろくでなしの、笑みだった。
2003年10月24日