12:きみと共有するものは、空気とことばと、それともう一つ





「おまえは中々に見所がある」
言われた言葉に浩瀚は深く叩頭し、礼を述べた。
「延王にそのように仰って頂けるなど、身に余る光栄に御座います」
「本当に惜しいな。陽子の腹心でなければ、強引にでも雁に連れ帰って俺の部下にしたものを」
「・・・・・・勿体無いお言葉です」
どこか試されているかのような言に、浩瀚は苦笑する。
先王の時代から、慶は雁と国交があった。
もとより隣同士の国で、なおかつ慶は短い王の時代がしばらく続いていたのだから、雁には世話になりすぎるほどなっている。
ある意味、慶の民を最も生かしてくれているのは延王かもしれない。
現在の景王である陽子の登極の際も手を貸してくれたのはこの人物だった。
彼をなくして、今の慶はない。
だからこそ浩瀚は素直に頭を下げたし、礼に礼を重ねて接していた。
雁の延王は、さすが五百年続いた名君だと感じながら。
「陽子がいて、景麒がいて、おまえがいる。慶の復興は想像以上に早そうだな」
「そうなるように拙めも勤めを果たしたく思っております」
一息置いて、浩瀚は口元に笑みを浮かべた。
「ですが雁の後ろ盾なくして、慶の復興が上手くいくかは判りませんが」
にやり、と尚隆も目を細めて笑った。
それはどことなく楽しそうで、けれどやはり試すような意図を含んだもの。
腕を組んで数度頷きながら口を開く。
「成る程。慶は雁なくては立ち行かぬ、と」
「そうは申しません。我らが主上はかの達王に勝るとも劣らない名君だと、我々は信じております故」
「ほう、では何故?」
「蓬莱ではこういう格言があるそうですよ。『使えるものは親でも使え』・・・・・・と」
さらりと述べた浩瀚に尚隆は一瞬目を丸くし、次いで声を上げて笑い出した。
腹を抱えて笑う隣国の王にちらちらと金波宮の官たちの視線も向けられるが、尚隆自身はどこ吹く風。
思う存分笑った後で、涙目になった目元を擦り、震える声で口を開く。
「・・・・・・本当に、慶の復興は早そうだな・・・・・・っ」
「嬉しいお言葉、ありがとうございます」
「いや何、慶が栄えてくれるとこちらとしても助かる」
まだ笑みの残る口元を片手で押さえつつ、尚隆は続けた。
「戴といい柳といい、雁の周囲は不穏な雲行きの国ばかりだ。柳の半分は珠晶が―――供王が引き受けてくれるとはいえ、恭は芳も抱えている。あそこは完全に王がなく、今後は沈んでいくだけだからな」
「慶が復興し難民も戻れば、雁はさらに楽になると?」
「そうだ。雁にいる慶の難民が減れば、その分の予算を柳の民に回すことが出来る」
「戴の方は如何なさるおつもりですか?」
「知らん。泰麒も戻ったことだし、あそこは放っておいてもどうにかなろう。驍宗が身罷れば鳳が鳴き、泰麒が新しい王を選んで万々歳。生きていれば、そのうち今の騒乱も治まるだろうよ」
断定的な物言いに、浩瀚は片眉を上げた。
楽観的と言うにはどこか確信的な、まるでそうなることを予め知っているかのような言葉。
まさか天帝でもあるまいに、と己の考えに一笑し、では、と口を開く。
「延王のお考えになられる未来のためにも、我々慶が頑張らなければなりませんね」
「そうしてくれ。我らが雁の未来もおまえたちの肩にかかっている」
「ご冗談を」
二人して戯言に笑い、けれど真剣に言葉を交わした。
これから続けゆく自分たちの王朝のために。
そして、相手の王朝に引きずられないために。
確固とした線を引き、二人は笑った。

「お手並みを拝見させてもらおう、慶国が誇る機才の冢宰殿」
「ええ、こちらこそ雁国を見習わせて頂きたく思いますよ。雁国が稀代の名君殿」

腹に一物抱えながらも爽やかな笑顔を浮かべ合う彼らを見て、六太は思った。
こりゃ雁も慶もしばらく倒れそうにねえや、と。





陽子ちゃんに感化され、蓬莱語を覚えていく浩瀚。
そのうち英語も普通に使えるようになりそうです。機才だしなぁ。
2006年2月19日