09:嫌い、だけど好き 嫌いだから、好き
もしも王じゃなかったら。
もしも大人じゃなかったら。
もしも麒麟じゃなかったら。
もしも子供じゃなかったら。
そうしたらもっと、おまえの近くにいれた?
「――――――尚隆!」
声を張り上げて呼んでみても、答えてくれる声はない。
それもそのはず、今の玄英宮には王気の欠片も感じられない。
己の主が在れば、輝かしい光と共に、どこか闇を纏った気配を感じられる。
否応にも引き付けられて止まないそれが、今の玄英宮には存在しない。だから、尚隆はここにはいない。
「・・・・・・また抜け出したのか」
シュコウが怒るぞ、と呟いて、けれど叱られる尚隆も見物だな、なんて麒麟としてあるまじきことも思い、六太は笑った。
くすくすと忍び笑う声が廊下に響き、軽い足取りで数歩進み。
そして、足を止める。
この住処に、尚隆の気配はない。
「・・・・・・あいつ、また連れてってくれなかった」
呟きが静かな回廊に落ちる。
自分はいつも、置いていかれる。
もしもおまえが王じゃなかったら。
もしも俺が麒麟じゃなかったら。
もしもおまえが大人じゃなかったら。
もしも俺が子供じゃなかったら。
もしも俺が女で、おまえを包み込めるような存在だったら。
そうしたらもっと、おまえの近くにいれた?
もしも俺がおまえを王に選ばなかったら。
そうしたらもっと―――・・・・・・・・・。
おまえは俺と、共にいてくれた?
「・・・・・・尚隆の馬鹿」
声が震えたのなんて認めてやらない。
傍にいたいと思っているのが自分だけだなんて、そんなの情けないし悔しすぎる。
だから絶対に、麒麟の性になんてしてやらない。
嫌い。だけど好き。嫌いだから、好き。
どうしようもない。何でこんな奴を選んでしまったのだろう。
天意は紛れもなく尚隆の上にある。だけど。
「・・・・・・・・・尚隆のばーっか・・・・・・」
天意は紛れもなく尚隆の上にある。
だけど共にいるには寂しすぎる彼に、心が痛んで仕方がない。
歪んだ視界を正すように、六太は強く目元を擦った。
泣くまいと決めて顔を上げ、長い廊下を走り出す。
目指すは厩だ。尚隆御用達の騎獣は二頭いる。
だけど彼は一人で出て行く。だから絶対に、どちらか片方は残されている筈だ。
それに乗って、追いかける。
「――――――見てろよ、絶対に掴まえてみせるからな!」
決意新たに六太は駆け出した。
彼を王にした瞬間から、決めていた。
置いていかれるくらいなら、追いかけて掴まえてやる。
だって自分は紛れもない、天意によって定められた尚隆の半身なのだから。
たま&とら。二頭いるのは主従二人のためだと思います。
六太がそれに気づいたら、きっと喜ぶだろうなぁ、なんて思いつつ。
名付けたのが小松さんだから、六太は二頭とも小松さんの騎獣だと認識しているんですね、たぶん。
2004年10月2日