07:あともう少しだけおなじ夢を見たいな





夜に、部屋を出る。
この長い廊下を裸足で歩く。
ひたひたと足は冷たく、距離を増すごとに感覚を無くしていく。
仁重殿から正寝殿まではひどく遠い。
しかも子供のまま成長の止まってしまった六太にとっては尚更。
「・・・・・・さむ・・・」
呟きが月下に落ちる。



雁国国王・延。
六太の主が休んでいるそこは、夜更けといえど護衛がなくなることはない。
入り口の大僕たちが、夜目にも金色に輝く六太の髪を見つけてその場に叩頭する。
小さく頷いて、六太は彼らの間を擦り抜けた。
用があるのは正寝殿の主。
六太のたった一人の王。
衝立の向こうに、紛れも無い王気が在る。
・・・・・・それだけのことが、ひどく嬉しい。
泣きたくなるほど、嬉しい。
そっと足を進めれば、窓から入る月光によって照らされている姿が見える。
寝台に横になっている尚隆を、六太は素直に綺麗だと思えた。
いつもは飄々としていて、いい加減で、周囲に迷惑をかけっぱなしなのに。
尚隆は、綺麗。
口にしたことはないし、これからもするつもりはないけれど。
六太にとって、尚隆は自慢だった。
これだけの王を選べたという、誇り。
後も先も無い。自分にとっての王は、尚隆ただ一人だ。
この男の興す雁と共に生きて、この男の滅ぼす雁と共に死ぬ。
それだけは誰にも譲らない。たとえ尚隆自身が嫌がったとしても譲れない。
出逢った瞬間に決めたのだ。

共に生きて死ぬ――――――自分は、尚隆のためだけの麒麟であることを。

「どうせ寝込みを襲われるのなら、馬鹿よりかは美女が良いのだがな」
寝台まで辿り着き、いざ布団へと手をかけたときに、その声は響いた。
けれど驚くことなく、六太はそのままぱたん、と手を主の胸の上に落とす。
小さく笑いながら床に膝をついて、上半身だけ寝台に乗り出した。
「何だ、起きてた」
くすくす、と音を立てて笑えば、寝台の中の尚隆はごろりとわざとらしく寝返りを打つ。
その際に出来た空間に、六太は転がり込んだ。
「退け。廊下をひた歩いてきた子供なぞ温婆子(ゆたんぽ)代わりにもならん」
「いーじゃん。尚隆が俺の温婆子になれよ」
「王を温婆子にするか。さすがは十二国一の馬鹿麒麟」
「・・・・・・その字、やめろって」
言葉では何だかんだと言いながらも、六太が布団を半分引き寄せるのを尚隆は止めはしない。
向けられている背中は広くて、だからこそ国を任せた。
そこに、今は額をつけて。
「・・・・・・なぁ、尚隆」
温かいなぁ、と思う。
「俺さ、もう少しだけおまえと同じ夢を見ていたい」
出来ればずっと、と心の中で唱えたのが伝わったのだろう。
「・・・・・・早く寝ろ、六太」
頭を撫でてくる手は乱暴な仕種で、それでいて温かかった。
そのぬくもりを抱いて、六太は目を閉じる。
己だけの王が見せてくれる、永久を夢見て。





この話では仁重殿があります(笑)
2007年7月21日