六太が先日言っていた『なんぱ』というもの(掌の幸福おまけ)





六太は黄色と赤の紙袋から、ハンバーガーを取り出した。
ちなみに今蓬莱のテレビで大々的に宣伝しているベーコンレタスバーガーのスマートセット(トリオ)である。
自分にはコーラ、長椅子に寝そべっている尚隆にはコーヒーを渡す。
100円のチキンナゲットのソースも、マスタードの方を放って投げた。
「なぁ尚隆。おまえ『なんぱ』ってされたことある?」
「『なんぱ』?」
聞きなれない言葉に、ソースの蓋を開けながら尚隆が聞き返す。
期間限定のカレーロールにかぶりついて六太は頷いた。
「男が女に声をかけるのを『なんぱ』って言うんだってさ。あ、じゃあ尚隆なら女に声をかけられるから『逆なん』か」
「・・・・・・おまえは蓬莱に行く度にいらん情報を持って帰ってくるな」
「うるせ。ぷちぱんけーき、やらねぇぞ」
「誰がその金を出したと思ってる」
そんな言葉と共に手を差し出されて、六太は文句を飲みこみながら半分になったカレーロールをその手に乗せた。
六太が蓬莱に行くときの金銭は、尚隆から―――正確に言えば城から出されている。
そこらへんの冠やら首飾やらを蓬莱に持って行って質や骨董品屋に入れるのだ。
アンティークめいた雁の、しかも工芸が得意な範で作られている装飾品は、現代の蓬莱で結構な高値がつく。
それを元手にして六太は蓬莱で活動し、たくさんの土産を買ってきていた。
「『なんぱ』なら、数え切れなくらいされている」
ブルーベリーソースをかけたプチパンケーキを、付属のフォークではなく手で抓んで、尚隆は口へ運んだ。
「俺が関弓の街を歩けばどうなるか、知らないわけではなかろう」
「・・・・・・そっか、そりゃそうだ」
さらりと言われて、六太は納得したように頷いた。
共に関弓に降りたことがあるから判るが、尚隆は街で色々な人物に声をかけられている。
妓楼に勤めている女を筆頭に、普通の商人から若い男女、果ては老人や子供にまで。
尚隆と国民との距離が良い意味で近いことは、彼が蓬莱にいた頃と変わっていない。
それは喜ぶべきことだ、と六太は嬉しく思って表情に出さないように笑った。
「じゃあ気をつけろよ。蓬莱じゃ『なんぱ』に着いていったら犯罪に巻き込まれる場合も多いんだから」
「それはこちらとて同じだろう。要は本人の警戒心の問題だな」
「尚隆はちょっと腕が立つからって警戒心が薄いからなー」
楽しそうに笑って、六太はバーベキューソースをナゲットにつける。
横からにゅっと伸びてきた手がそのソースを奪い、代わりに黄色いマスタードソースを置いていった。
辛くて六太が食べれないそれを。
「・・・・・・・・・性格悪ぃ」
「何を今更」
軽く笑って、尚隆はポテトにバーベキューソースをつけて平らげる。
むっつりと不貞腐れながら、六太はストローに口をつけ音を立てて吸い上げた。
「利広や氾王に『なんぱ』されても着いてくなよ」
「さぁな。条件次第といったところか」
「それで何かされても助けてなんかやらないからな」
「それはあるまい」
食べ終わったゴミをまとめて尚隆は笑った。
その笑みは、果たして自分が危険にさらされることはないという意味なのか、それとも六太に助けを求めることはないという意味なのか。
きっと両方だ、なんて思いながら六太はコーラを飲みきる。

この数日後、自分の主が『なんぱ』に遭うとは露ほどにも知らずに。





麒麟はマックなど食べません・・・。
2004年1月15日