A guardian of Liberty and Solitude
6.奇跡を失墜





そもそもルルーシュは、ゼロを拘束するのに軍を動かす気はまったく無かった。そうすれば「弱者を一方的に虐げるのは許さない」ゼロが活動を起こすのに、格好の理由を与えてしまうからだ。ゼロは力を示せば、同じように力で返してくる。ならば何もし無ければ「武器を持たない者」の範疇に含まれ、攻撃される謂れにはならない。無駄な犠牲を払うつもりもないため、ルルーシュは軍に待機命令を出していた。ブリタニア皇帝によってナイト・オブ・ラウンズのジノとアーニャを借り受けているけれども、彼らをナイトメアフレームに乗せる気も無い。そりゃ無いですよルルーシュ殿下、とジノは残念そうに訴えてきたけれども、アーニャは大人しいものだ。せがまれて何枚か携帯カメラの被写体になったら、それだけで満足してくれたのか従順に従ってくれている。
「セロが姿を現したのは過去に数回。そのすべてにおける、すべての記録は手に入ったな」
「Yes, Your Highness. HiTVが精力的に収集してくれました。エリア11に存在する人間の数は、8932万4366人です」
「では、始める」
政庁の地下にある一室でルルーシュが命じると共に、無数にあるモニターに一気に画像が映し出された。ありとあらゆる角度から撮影されているのは、仮面の男、ゼロ。クロヴィスを殺害するため政庁に進入した際のもの、民衆の前に現れて宣言を述べたときのもの、同じシーンがテレビ局や一般人によって多種多様に記録されており、そのすべてが今、この部屋に集まっている。
「身長は170台後半」
大仰なパフォーマンスを見せるゼロは、マントを纏っているけれども、その下は身体の線を露わにしている礼服だ。映し出される姿を前に、ルルーシュは立ったまま腕を組んで、何物も逃さないように両の瞳で見据え続ける。
「該当者、1912万8401」
「細身だが筋肉質であり、鍛え上げられた身体をしている。足取り、気配の放ち方、共に武道を学んだ人間のものだ。日本古来の」
「該当者、大きく減ります。3万7509」
「その中でゼロの出現時刻、アリバイの無かった者は?」
「照合します。・・・・・・出ました、4425人です」
「そんなものか」
ふむ、とルルーシュは顎を撫でる。彼は軍を動かす代わりに、それと同じ数の密偵をエリア11内に放っていた。そもそもゼロという個人を特定するだけなら、その材料など多分に提示されているのだ。何度も民衆の前に姿を現し、マイクと変声機で隠されているとはいえ、晒されている情報は数多い。となれば、後はエリア11に存在するすべての人間から条件に合う者だけを篩いにかければ、おのずと該当者も絞られてくる。対象は当然ながらイレブン・ブリタニア人に関係なく、すべての人間だ。性別すら関係なく、すべての情報を集めた。
ルルーシュは知っていた。ゼロを偶像にしているのは、あの仮面なのだ。仮面の下には、同じように人間が息づいている。その事実に気づいているようで気づいていない輩の多さこそ、ルルーシュには不思議でならない。どうして誰も、ゼロを科学的に分析しようと思わないのだろう。個人を特定するのは現在のブリタニア技術では難しくなく、実際にシュナイゼルから借り受けた科学チームは特に優秀で、ルルーシュの要望にも次々と応えてみせた。
「4425人なら、自然とブリタニアに恨みを持つに到った者も限られてくるだろう。後は性質だな。ゼロはそこそこのカリスマを持っている」
「ルルーシュ殿下には負けますけどね?」
「ジノ、そんな合いの手はいらない」
「・・・・・・比べるだけ、失礼」
「アーニャもだ」
見ているだけの騎士たちの賞賛に、ルルーシュが呆れたように言葉を返す。科学チームの面々はそれぞれに笑い、けれど肯定に首を縦に振った。ルルーシュは肩を竦める。
「次は声の分析だ。変声機を用いているとはいえ、それが最新技術でも所詮はブリタニアのもの。ノイズを消し、ゼロ本人の声を拾い出せ」
「Yes, Your Highness」
「作り上げられたにしては付け入る隙を持っている主張だ。案外若いかもしれないな。同年代なら、もしかしたら良い友達になれたかもしれない」
くく、とルルーシュが笑えば、思ってもいないくせに、とジノが囁く。じわりじわりと狭められている包囲網に、きっとゼロは気づいていない。力でなくても絡め捕ることは出来るんだよ、と子供に教えるようにルルーシュは甘く呟いた。





ゼロは人だ。憎悪と執念を持つ、紛れもない人間だ。
2008年6月11日