close, on a world
7.R, my dear brother.





その日、深夜になって帰宅した直人を待っていたのは、母ではなくルルーシュだった。明かりもつけない居間で、座布団に収まって窓から見える月を眺めている。その小さな後ろ姿に「ただいま」と声をかければ、分かっていたのだろう、「おかえり」と振り向いた。その目元が赤く腫れていて、どうしたのかと驚くけれども、それはルルーシュからの言葉に遮られた。
「直人。我侭を承知で言う。僕に協力して欲しい」
「・・・・・・何をすればいい?」
「ナナリーと話がしたいんだ。そのための算段に手を貸してくれ」
出てきた名は、日本で今最も有名なブリタニア人のもの。日本侵略の指揮者、第六皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニア。反射的に身構えるけれども、ルルーシュの顔が穏やかなのに気づき息を吐く。どうやら、自分の居ない間に心変わりがあったらしい。今まではどこか張り詰めた糸を感じさせていたが、それがない。直人は苦笑しながら近づき、ルルーシュの前に座り込む。
「どうやって会うつもりだ? 相手はブリタニア軍の総指揮者だぞ」
「ナナリーはナイトメアフレームに乗って戦場に出てくる。そのときを狙えばいい」
簡単に言うけれども、その内容は無視できない。根拠は、と尋ねればルルーシュは説明を重ねた。
「僕が皇室を出て、約二年。その間にナナリーが両足の治療を終え、軍人としての訓練を受け始めたとしても一年半。その時間では戦略や戦術は覚えられない。それにナナリーが戦場に立つとしたら、その教えを授けるのは第二皇女コーネリアだ。姉上は母上を敬愛していて、僕とナナリーにも優しかったから」
「コーネリア・リ・ブリタニア・・・・・・ブリタニアの魔女か」
「姉上は指揮官としても優れているが、ナイトメアフレームのパイロットとしても一流だ。軍略は一年やそこらで学べるものではないし、ナナリーには覚えられない。だから学ぶならパイロットの技術だろう」
「どうして覚えられないと断言できる?」
「母上が軍略を僕に教えたから。だからナナリーは指揮官として戦場に立つことは出来ない。例え出来たとしても、僕より劣る」
ルルーシュははっきりと、己が母親にされたことを明言した。今までは「作られた」とだけしか言わなかったのに、どういう変化だと直人は目を瞬く。赤い目元と、憑き物が落ちたような清清しい表情。今までの憂いが影を潜め、穏やかな性質が表面に出てきている。これが本来のルルーシュか、と直人はまじまじと彼を見つめた。この変化をもたらしたのはおそらく妹の花蓮なのだろうが、そう考えると少しだけ羨ましくもある。
「日本でもおそらく、ナナリーはナイトメアに乗って戦うだけだ。背後に控えていたアンドレアス・ダールトンはコーネリア姉上の師匠だから、おそらく彼が作戦を立てている。それなら展開は読みやすい。彼の作戦は、アリエスの離宮でいくつか目を通したこともある」
「具体的にはどうするんだ?」
「ナイトメアを一機奪い、それでナナリーに近づく。声さえ聞けば、ナナリーは僕に気がつくだろう」
「会ってどうする?」
「話をしたい。ナナリーに母上の死の真相について教えたい。それが兄として僕に出来る、最後のことだろうから」
月光の中、少しだけ眉を歪めてルルーシュは笑った。手を伸ばしてその黒髪を撫ぜ、分かった、と頷く。礼を言って首を竦めるルルーシュに、そろそろ「兄と呼べ」と言っていいのかもしれない、と直人はそんなことを思った。





自らの足で歩き出した、この可愛い弟に。
2007年11月4日