close, on a world
6.catch your future!
ルルーシュが、ナナリーの兄。ナナリー。ナナリー・ヴィ・ブリタニア第六皇女殿下。じゃあ、ルルーシュは。ルルーシュも。
「ルルーシュも・・・・・・ブリタニアの、皇子なの・・・?」
問いかけに、ルルーシュは視線をテレビから花蓮に移した。紫色の瞳が一瞬前より格段に艶を帯びた気がする。認識から来る意識の変化だと、花蓮はそのとき気づけなかった。
「・・・・・・ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。それが僕の名前だ。ナナリーとは母も同じ、正真正銘の兄妹になる」
「な、んで・・・! 何でブリタニアの皇子がうちにいるの!?」
「皇室から逃げてきた。あそこにいる意味も、理由も分からなくなったから、逃げ出してきた」
「何それ・・・・・・」
「僕は、現ブリタニア皇帝と、第三十二皇妃マリアンヌの間に生まれた。ブリタニア皇帝の子の中では十三番目の生まれで、皇位継承権は十七位に当たる」
淡々と綴られる真実を逃してはいけないと花蓮は思った。テーブルの上のリモコンを掴んで、まだ声明を述べているテレビを消す。ルルーシュの手を引っ張って、彼を座布団に座らせた。逃がさないように、逃げないように、しっかりと両手で捕まえる。
「・・・・・・話して、ルルーシュ」
ちゃんと聞くから、と花蓮は言った。実際に、ちゃんと知りたかった。ルルーシュの身分がではない。何がルルーシュに皇室を出るまでさせたのか、それが知りたかった。ふつふつと、心の底に浮かび始めたものが怒りであると、花蓮自身理解していた。ルルーシュの瞳が花蓮を見つめて、ふるりと揺れる。
「・・・・・・何から話せばいいのか、分からない」
「何でもいい。ちゃんと聞くから。ルルーシュのこと、ルルーシュの口から教えて」
「・・・・・・馬鹿みたいな話だ。本当に馬鹿で、愚かで、どうしようもない」
震えるように息を吸って、吐き出して、ルルーシュは小さく話し始めた。
語られる、恐ろしい家族の話。
力のみを唯一とし、実子に向かって「死んでいる」という父親。
美しく優しくありながら、笑顔で自らの死を画策した母親。
そしてすべては与えられていたものと知り、がらんどうになった息子。
ぽつり、ぽつりと語られるのは、花蓮には想像もつかない家族像だった。花蓮の知っている家族とはまったく違う。愛が見えない、温かさの感じられない家族の話。
「・・・・・・母上の死が、母上によって画策されたものだと知って、父上に、すべては自分のものではないのだと言われて、ようやく気がついた。僕のすべては父上に与えられ、母上によって作り上げられたものだった。ルルーシュなんて人間はいない、どこにも」
ルルーシュの肩が小刻みに揺れていた。握り締めている手は冷たく、言葉を連ねるにつれ声さえも掠れていく。だけど、それ以上に花蓮も泣きそうになっていた。
「そう気づいたら、怖くなった。僕の持つ感情の起伏も、それから来る行動も、すべてが計算されたものだと、予定の中にあるものだと知って、居ても立ってもいられなかった。悲しかった。せめて母上だけは、信じていたかったのに」
手を握り締める。泣かないで、と言いたい。泣いて、と言いたい。ルルーシュが泣かないのなら、一緒に泣くと言いたかったし、ルルーシュが泣くのなら、その間は誰にも見られないように守ってやりたい。どうしてだろう。花蓮は今、ルルーシュを抱き締めたくて仕方がなかった。
「すべてを捨てたくなって、ルルーシュを知る人のない世界に行きたかった。だからナナリーを見捨てて、皇室を出た。ブリタニアを彷徨って、密航して、EUを経由して日本に来た。そして・・・・・・直人と、出会った」
初めてルルーシュと会った日、覚えている。制服姿の兄が連れ帰ってきた、ぼろぼろのコートを着た子供。埃で薄汚れた黒髪、細い身体、小さな手。そのうちにどれだけの絶望を秘めていたのだろうか。花蓮は何も知らなかった。両親に利用される子供も、その子供が隣にいることが当たり前の現実を。
「嬉しかった。温かかった。この家はこんな僕にも優しくて、本当にこの家の子供に生まれていればと何度も思った。だけど、そう思うことすら、母上の計算のうちなのかもしれない。父上が与えたものなのかもしれない」
「違う! それは絶対違う!」
「分からない。僕は僕を知らない。どうすればいいのか、どうすれば僕になれるのか分からない」
「しっかりしなさいよ、ルルーシュ! あんたはあんたでしょ!」
「違う。僕は人形でしかない。父上から与えられた世界で、母上の望むとおりに動くだけの」
「何でそんなこと言うの!? あたしはあんたしか知らない! ブリタニア皇帝も、ルルーシュの母親も知らない! だからあたしが見てきたルルーシュは、ルルーシュだけのものよっ!」
手を放して肩を掴んだ。強い力で必死に揺する。そんな言葉はもう言って欲しくなくて、分かって欲しくて。悔しかった。大好きなルルーシュが、彼自身をそんな風に見ていたなんて。悔しかったし許せなかった。大好きだから、そんなことを言って欲しくなかった。好きになったルルーシュを、たとえ彼自身でも否定する輩は許せなかった。
「・・・・・・花蓮」
見上げてくる紫の瞳に、ついに堪え切れなかった。花蓮の方が先に泣いてしまった。大粒の涙か畳に落ちる。
「いい!? 例えあんたに分からなくても、あたしにはルルーシュが分かる! だから好きなように生きればいいの! 好きだと思ったものを好きになって、やりたいと思ったことをやればいいのよ! あたしはその全部を肯定してあげる。それがルルーシュだって、世界中に胸を張って言える!」
「花蓮」
「だからあんたは好きなように生きればいいの! それがあたしの知ってる、紅月ルルーシュなんだから!」
必死だった。分かってもらいたくて、懸命に喚いた。涙で声は歪んだけれど、どうしようもなかった。ルルーシュをきつく抱き締めて、花蓮は「大好き!」と繰り返して泣いた。少しして嗚咽が二つに増え、夕焼けの部屋の中、二人して抱き合い、泣いた。
届いて、あたしの声。
2007年11月3日