close, on a world
5.I thought tomorrow was a further day.
友達がひとり、ふたりと新宿から去っていくのを花蓮は見送っていた。日に日に近づいてきている戦線に、今や半数の住民が田舎へと疎開している。母の勤めている工場も閉鎖が決まり、花蓮も今週末に長野へ引っ越すことが決まった。兄は学校が閉鎖してから、忙しなくどこかへ走り回っている。花蓮も知っている兄の友人の扇も一緒で、何をしているのか聞いたけれども、彼らは教えてくれなかった。買い物以外に出歩くことも禁止され、花蓮は日長ルルーシュと部屋でテレビを見ていた。ニュース番組はリアルタイムで戦況を伝える。しかしそれは日本の劣勢を知らせるよりも鼓舞を促すもので、そのことに花蓮は首を傾げていた。戦争はまだ花蓮にとって遠いものだった。その瞬間までは。
「っ・・・・・・!」
隣に座っていたルルーシュが立ち上がった。どうしたの、と仰げば、彼は紫の瞳を目いっぱい見開いて、テレビを凝視している。花蓮がテレビに視線を戻すと、そこには人形のようなロボットが映っていた。茶色の、五メートルくらいのロボット。まるで人間のように二本の足で動き、二本の手で構えた銃で、次々に日本軍隊を壊滅させていく。すごい、と花蓮は見入ってしまった。
何もなくなった砂浜に、戦艦から巨大な車のような、飾りのついた乗り物が降りてくる。何あれ、と花蓮は呟いた。二本足で動くロボットといい、あんな大きな乗り物といい、すべて日本にはないものばかりだ。少なくともこんなもの、花蓮はアニメの中でしか知らない。
「G-1ベース・・・・・・」
「ジーワンベース?」
「ブリタニア皇族が使用する、指揮用陸戦艇だ。あれには皇族が乗っている。・・・・・・日本は、もう終わりだ」
「そんなっ! 何で!?」
「ブリタニア皇族は決して負けない。ナイトメアフレームが投入された今、ブリタニアの負ける要素はなくなった」
「・・・・・・どうなるの、あたしたち」
「日本はブリタニアの属国になる。生きることは出来る。だが、権利は奪われる。日本人はその名を語ることを許されず、ナンバーズとしてブリタニアの奴隷と化す」
蒼白な顔でテレビを睨みつけていたルルーシュは、踵を返した。
「待って! ルルーシュ、どこ行くの!?」
「疎開じゃもう駄目だ。今ならまだ抜け出せる。直人と清美さんを呼び戻して、早くブリタニア以外の国に行くんだ」
「でも、そんな・・・・・・っ」
「ブリタニアは平気で人を食い物にする。だから早く―――」
『はじめまして、日本人の皆様。わたくしは神聖ブリタニア帝国第六皇女、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです』
テレビから聞こえてきたのは、高い女の子の声だった。今にも出て行こうとしていたルルーシュの足が止まる。ゆっくりと、ゆっくりと振り返った彼の顔を、花蓮は畳の上から見上げた。開かれた唇が息を呑むように動く。喉が上下する。瞳はテレビを見つめている。ブラウン管の向こうに、一人の少女が存在した。柔らかいクリーム色の髪は長く、前を向いている瞳は紫。足が悪いのか車椅子に座りながらも、毅然とした表情をしている。
「ナナリー・・・・・・」
呟いたルルーシュの瞳は紫だ。少女と、同じ。誰、と呟くことも出来ない。
「・・・・・・妹だ、僕の」
告げられた真実に花蓮は目を見開いた。テレビの中、少女は花のような笑顔で宣告する。
『わたくしはこの度、日本を我がブリタニアの領土とするべくやって参りました。日本政府には一刻も早い降伏をお勧めいたします。わたくしがこの国を、焦土と化してしまわないうちに』
ブリタニア帝国、の、ブリタニア帝国、の・・・?
2007年10月18日