close, on a world
4.fire for your own honor





戦端は突然開かれた。ブリタニア軍による、日本への襲撃。それは予兆のないものだった。次々に落とされる爆弾、上陸してくる兵器。日本の自衛隊も応戦したが、敵う相手ではなかった。海に面している四方から、日本はブリタニアに蝕まれていく。すでに学校は閉鎖し、人々は軍の指示に従って山奥へと疎開を始めた。自分たち家族も行かなくてはいけない。逃げなくては、そう分かっているのに、直人は己に問わずにはいられなかった。このまま逃げてよいのか、と。
「・・・・・・僕を使えばいい」
声は子供のものだった。直人が拾ってきた、彼の妹と同じ年の、まだ小さな少年のものだった。
「僕を使え、紅月直人。そのためにおまえは僕を拾ったんだろう」
「ルルーシュ・・・・・・」
「使え。今こそ僕の、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの名が役立つときだ」
告げられたフルネームに思わず振り向く。疎開への準備をしている散らかった部屋の中に立っていたのは、子供ではない。いまや敵国となってしまったブリタニアの、皇位継承権を持つ直系皇子。廊下から差し込む蛍光灯を受け、ルルーシュの肌が青ざめて見える。
「機会は今しかない。じきにブリタニアは新型兵器を投入してくる。この戦争はそのためのものだ。ブリタニアの武力を世界に誇示し、日本のサクラダイトを確保するためのもの」
「新型兵器?」
「ナイトメアフレーム。二足歩行の人型自在戦闘装甲騎だ。・・・・・・僕の母が開発に携わり、皇妃の身分を得るまでに到った兵器」
「それが、日本に来る?」
「来たら終わりだ。だがテレビで見ている限り、枢木首相は最後までブリタニアに抵抗すると宣言している。ブリタニアとて、せっかくの戦争の機会を逃しはしない。ナイトメアフレームは必ず来る」
だから直人、とルルーシュは言った。
「機会は今しかない。僕を日本政府の元に連れて行け。そうすれば時間が稼げる。その間に花蓮たちと日本を脱出しろ」
「・・・・・・駄目だ、ルルーシュ」
「何故」
「俺は、自分のためにおまえを利用したくない。おまえの母親のように・・・・・・父親のように」
小さなシルエットがびくりと震えた。荷物をつめていた鞄から手を放し、そっと影へと伸ばす。触れた頬は丸い。まだ幼い子供。十を過ぎたばかりの少年が、どんな旅をしてきたのかを知っている。危ない手を使って調べたし、ルルーシュ本人からも聞いた。ブリタニア皇帝とマリアンヌ皇妃の長子、第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。大帝国の十七位皇位継承者。そのルルーシュが母親の死を切欠に、両親と自らに絶望して放浪してきたのを知っている。知っていて、どうして彼を巻き込めようか。もう二度とブリタニアと関わりたくないだろうに、自分のために。
「大丈夫だ、ルルーシュ。日本は負けない」
抱き寄せれば、更に小さな身体に気づく。直人、と諌めるような声が耳元でした。
「たとえ負けることになっても、俺はおまえを差し出したりなんかしない。おまえはもう俺たちの家族なんだ。ルルーシュも、花蓮も母さんも、俺が守ってみせる」
「・・・・・・無理だ。ブリタニアはそんなに甘くない」
「それでも、誇りを売り渡すよりましだ」
闇の中で紫の瞳が光る。これが紫玉か、と直人は思った。美しく厳かに、そして哀しみに暮れる光。こんな小さな子供にまで。そう思うと憎しみが止まらない。ましてや血の繋がった我が子だろうに、ブリタニアは平気でそれすらも道具にする。
「大丈夫だ、ルルーシュ。大丈夫だ」
笑ってみせれば、ルルーシュが戸惑ったように気配を揺らした。大丈夫、そう直人は繰り返す。大丈夫、大丈夫。
死はまだ遠いものだと、そのときの彼は思っていた。





生まれ育った俺の国、日本。踏み躙られてなるものか。
2007年10月18日