close, on a world
2.You are a heroine, and I am a hero!
子供は男の子で、名をルルーシュといった。年は花蓮と同じだったけれども、誕生日の差で望みどおり花蓮が姉、ルルーシュが弟になった。ルルーシュは小柄で色が白く、細かった。黒髪は襟足を越えて伸びており、一見する限り女の子のようにも見える。紫の瞳が綺麗で、花蓮は学校から帰ると毎日、ルルーシュを連れて遊びに出かけた。
ルルーシュは花蓮の知っていることをほとんど知らなかった。公園の滑り台、砂場、ぶらんこ。商店街、店頭に並ぶ魚、一個ずつ売ってくれるコロッケ、子供の王国である駄菓子屋。手を引っ張って連れて行くと、ルルーシュはいつも戸惑うように足を止める。それが未知の物に対する彼の行動なのだと、花蓮も何度目かで理解していた。
「ルルーシュ、学校も知らないの?」
「・・・・・・定義は、知ってる」
「定義?」
「学校は、教育のための建物、または学生その他に対して教育が行われる場所のことだ」
「ふぅん。でも入ったことはない?」
返事は返ってこないけれども、これもいつものことだ。ルルーシュは、花蓮の連れ回す場所がどういうものであるかはすべて知っていた。知識だけは大人にだって負けないみたい、と花蓮は思う。だけどルルーシュは決定的に経験が足りないらしかった。放課後ということで、いろんな生徒たちが校庭で遊んでいる。鉄棒のひとつを陣取り、花蓮は逆上がりをしてみせた。
「ルルーシュって一体どんな生活をしてたのよ? 公園も駄菓子屋も学校も知らないなんて」
「・・・・・・別に、普通の」
「ぶらんこを知らない生活は普通って言わない!」
きっぱりと言ってやれば、ルルーシュは少しだけ眉根を寄せる。感情の変化を表に出さないのも、ルルーシュのひとつの特徴だった。笑ったり怒ったり泣いたりしたところを、花蓮はまだ見たことがない。同じ年なのに花蓮の知っている同級生たちとは全然違って、どうしても気になって仕方がない。
「・・・・・・外で遊ぶことは、あんまりなかった。あっても、花畑とか、噴水とか」
「花畑かぁ。ここら辺にはないかな。他は?」
「・・・・・・博物館とか、歴史資料館とか」
「それって社会科見学じゃないの?」
首を傾げるけれども、ルルーシュは返事をしない。鉄棒で遊ぶ気もないらしく、寄りかかってただ校庭を見回している。ドッジボールをしていた同じクラスの子が、遠くから花蓮に向かって手を振った。
「花蓮ちゃーん! 一緒にやらなーい?」
「やるやるーっ!」
鉄棒からくるっと降りて、ルルーシュの手を掴む。彼が相変わらず足を止めたので振り返れば、珍しく嫌そうな顔をしていた。
「・・・・・・ドッジボールは、痛いんだろう?」
花蓮は思わず笑ってしまった。初めて、年相応の言葉を聞いた気がする。
「大丈夫! ルルーシュはあたしが守ってあげるから!」
引っ張るようにして駆け出した。花蓮はもう知っていた。ルルーシュはあまり運動が得意ではない。そして彼は日本人ではなく、ブリタニア人なのだと。
守ってあげる!
2007年10月15日