close, on a world
1.the first night that met fate





花蓮は母と兄との三人暮らしだ。新宿の小さなアパートで生活をしている。兄は高校に通っており、花蓮は今年小学校五年生になった。母は近くの小さな工務店で事務の仕事をしており、裕福ではないけれど温かな日々を送っている。世界では日本とブリタニアの対立が深まっていたらしいけれども、花蓮には関係のないことだった。少なくとも、その日までは。
その日、学校に行っていたはずの兄が、一人の子供を連れ帰ってきた。母もすでに帰宅しており、夕飯の手伝いをして花蓮が皿を並べていたときだった。ただいま、という声がして玄関に駆け出す。
「おかえり、お兄ちゃん!」
「ただいま、花蓮」
「もう夕飯だよ。今日はカレーライスだって」
「そっか。でもごめんな、先にこいつを風呂に入れたいんだ」
こいつ、と言われて花蓮が首を傾げると、兄―――直人は半身を返して自分の背を見せる。そこには薄汚れたコートを着た子供がひとり、立っていた。身長は花蓮よりも低い。大人用のコートが指先を隠し、踝まで届こうとしている。俯いているため顔は見えないけれども、知らない相手に花蓮は不審げに眉を顰めた。
「直人、帰ったの?」
エプロンで手を拭いながら、母―――清美が出てくる。直人はそんな母にも笑顔を向けて、背後の子供の黒髪を叩いた。
「母さん、こいつうちに泊めてやってもいい? 親とはぐれちゃったんだってさ」
「あら・・・・・・交番には連れて行ってあげたの?」
「んー、腹減ってるみたいだし、飯食って風呂入った後でもいいかなって」
「そう、ね、そうしてあげなさい」
「お母さん!」
清美は困ったように子供を見つめていたが、ふと表情を緩めて許可を出した。よっしゃ、と直人が子供の背を叩く。
「ほら、上がれ。靴は脱ぐんだぞ?」
「・・・・・・」
「あぁもういいや、面倒だし。行くぞ!」
動こうとしない子供を抱え上げ、鼻歌を歌いながら風呂場へ向かう。そんな兄の背中を見て、花蓮は母を振り返った。
「お母さん、いいの!? 知らない子だよ!?」
「困ってるみたいだし、いいじゃないの。それに直人が連れてきた子だもの、悪い子じゃないはずよ」
「それは、そうだけど・・・・・・」
だけど、何となく嫌だ。兄を取られたようで面白くないと頬を膨らませた花蓮に、母は優しく微笑みかける。
「仲良くしてあげなさい。花蓮はお姉さんなんだから」
「おねえさん・・・・・・?」
「あの子が年下だったらね」
初めての響きに、ぱっと笑顔が浮かぶ。兄は自慢だけれども、実は弟妹も欲しかった。あの子が男の子か女の子かは判らないけど、身長は自分より低かったから、きっと弟か妹だ。そう思うと花蓮も嬉しくなって、兄の置いていった通学鞄を拾い上げる。
「お母さん! あの子、好き嫌いあるのかな?」
「どうかしら。ちゃんと食べさせてあげるのよ?」
「分かってる。だってあたし、おねえちゃんだもの!」
足取り軽く、食堂となっているキッチンに戻る。奥の風呂場からは兄の笑い声とシャワーの流れる音が聞こえる。新しい家族になるかもしれない存在に、花蓮の胸はわくわくと高鳴っていた。

その日の夜、兄と母が遅くまで話していたことを花蓮は知らない。





はじめまして、ルルーシュ。あたしはカレン!
2007年10月15日