時の娘
6.遠くて近いあなたへ
「婚礼の儀は、地味に」
「おまえが侮られる」
「末席の貴族とはいえ、元の出は庶民。両親を戦争で喪い、軍で身を立ててきた人殺しの女。しかと持っているのはナイトメアフレームを操縦する腕前のみ、それだけで十分侮られるでしょう」
「聡明さがあるだろう。そして美しさも」
「ギアスも、とどうか付け加えてくださいませ。わたくしはあなたに守られるために妻になるのではありません。ご心配なく。自分の身は自分で立てます」
「・・・・・・」
「そうお拗ねにならないで。離宮は小さくとも、緑に溢れる庭がいいのですが」
「手配しよう。望むものがあれば、いつでも言うが良い」
「それではお言葉に甘えて、いくつかお約束を」
「ああ」
「どうかわたくしだけを愛さないでください。あなたはブリタニア帝国の皇帝陛下。その情は多くの妃へとお分けください」
「おまえは、それでいいのか」
「騒乱の源を避けますれば。わたくしには、どうか虚勢を張られないでください。無駄なことをする必要はありません。皇帝陛下の仮面は、わたくしの前ではお外しになられて」
「元より被ることなど出来ん」
「ナイトメアフレームに乗り、戦場に立ち、敵兵を屠ることをお許しください。もちろん子を身籠ったなら、出産と育児に励みます。それまでは、どうかわたくしを戦場に」
「わしとこの国のために戦っているおまえを、どうして許さぬことが出来ようか」
「子が産まれたなら、どうか名前をお与えくださいませ」
「もちろんのこと」
「わたくし、結構お酒を嗜みますの。つまみにケーキを食べたりもしますわ」
「わしも甘いものが結構好きだ」
「鍛え上げるのを辞めるつもりはありません。柔らかみのない身体に失望されないよう、お覚悟を」
「おまえであること以上に求めるものはない」
「朝に弱いんです。政務にお出かけになられる陛下を見送ることが出来ないかもしれません」
「それでは文を残していくことにしよう。マリアンヌ」
「はい」
「・・・・・・おまえはどうか、生涯わしの傍に」
「・・・はい。わたくしはあなたの妻。末永く可愛がってくださいませ」
与えられた口付けは優しくて、何故か泣きたくなってしまった。
2008年7月21日