時の娘
2.アフタヌーンの乙女たち





マリアンヌがギアスという能力を得たのは、彼女はまだ十にも満たない幼い子供だった頃の話だ。住んでいた街が戦争で焼かれ、両親を喪い、瓦礫と死体ばかりの中で立ち尽くしていたマリアンヌは、一人の魔女と出会った。遠い記憶だけれども色褪せていない。ライトグリーンの髪は未だ健在で、彼女は今も気紛れに現れては、十年以上前から変わらない容姿と態度でマリアンヌに声をかけてくる。
「久しぶりだな、マリアンヌ」
「久しぶりね、C.C」
「おまえの活躍は聞いているぞ。マリアンヌ・ランペルージといえば、今のブリタニア軍では最も有名なパイロットらしいじゃないか」
「そんなことないわ。私なんてまだまだ」
与えられている士官寮の一室で、戻ってきたマリアンヌを出迎えたのは約二年振りくらいの再会になるであろう魔女だった。C.Cという名の彼女は、ワンピースの裾を翻して支給品のベッドに横になり、硬いスプリングに眉を顰めている。相変わらずの傍若無人さに笑いながら、マリアンヌは彼女を眺める。
ひとり途方に暮れていた幼い自分に、C.Cはギアスという名の能力を与えてくれた。もちろんそれには対価があり、マリアンヌはいずれC.Cの願いを叶えるという契約をしている。彼女の願いがどんなものかマリアンヌは知らないし、検討もつかない。けれど、それに見合うだけのものを与えてもらったと思っている。ギアスがあったからこそ、マリアンヌは子供ひとりで戦後を生きてこられたし、こうして軍に所属し、アッシュフォード家に見い出され、時代の最先端を行く第三世代ナイトメアフレーム・ガニメデのパイロットを任されている。すべてC.Cの与えてくれたギアスという切っ掛けがなければ存在しない今だ。心から感謝している。
「・・・・・・まだ、色は変わらないな」
ベッドの上から見上げてきたC.Cに、マリアンヌは微笑を返した。
「威力はどうだ?」
「有効範囲が少し広がったかしら。今なら500メートル以内にいる人の未来を、大体のところは見ることが出来るわ。もちろん詳細に知るためには、範囲を狭めなくてはならないけれど」
「自分の未来が見えないのは相変わらずか」
「ええ。私自身と、私に深く関わる人の未来は全然。力が強まれば見えるようになるのかしら」
「そのときはおまえがその力に呑まれるときかもしれないぞ」
揶揄を向けられ、思わず失笑する。出会った頃は大人だと思っていたC.Cの背を追い越したのは、17歳になった頃だった。今ではもう、こうして互いに含みを持たせながらの会話も交わせる。両親を亡くし、ひとりで生きなくてはならなくなったマリアンヌにC.Cは多くのことを教えてくれた。ギアスの使い方だけではない。子供として愛情も注がれたし、少女に成長する際にも世話になった。恋の話だってしたし、処女を捨てるときにも相談をした。マリアンヌにとってC.Cは母であり姉であり親友であり共犯者だった。
30分ほど、他愛ない会話を交わす。マリアンヌは最近軍であったことや街で新しく開かれたケーキ屋のことを話し、C.Cは中華連邦で見た星空やEUで食べたパスタについて語った。ふと時計を見て、マリアンヌは残念そうに眉を顰める。
「C.C、もう行った方がいいわ。この後同僚が私を呼びに来るから」
「おまえが言うなら従うしかないな。じゃあな、マリアンヌ。今度は戦場に会いに行くよ」
「あら。それは危ないから、そうならないよう変えておくわね」
ふふ、と笑いを残して、C.Cは堂々と部屋のドアから出て行く。目立つ容姿をしている彼女だけれども、何故だか今までも他の軍人に見つかって騒ぎになるということはなかった。だからマリアンヌもいつものように手を振って見送り、緩めていた軍服の襟元を正す。五分もしないうちにドアがノックされ、同じ隊の男が顔を出した。
「マリアンヌ、緊急ミーティングだとよ」
「あら、次の戦地はどこかしら」
「さぁな。どうせやることは一緒なんだ、飯が美味くて寒くなけりゃ十分さ」
明るく言われて笑いを返し、マリアンヌは男と共に部屋を出た。軍の寮は飾り気がなくて殺伐としているけれども、すでにこういった雰囲気にも慣れている。C.Cは迷わずに出られたかしら、と思いながらマリアンヌはミーティングルームを目指した。





またな、マリアンヌ。
2008年7月13日