顕微鏡を覗き込んでもまだ見えないもの
「相変わらず物理と数学は勝てないな」
返ってきたテスト用紙を片手に、ルルーシュは半ば感嘆しながら肩をすくめた。
実験台を挟んだ反対側で、ニーナは照れくさそうに頬を緩める。彼女の手にはどちらも満点のテスト。対するルルーシュの点数は、物理が96で数学が98だった。
「でも、総合での一位はまたルルーシュ君だったよ」
「ニーナは文系が理系ほど強くないからな。何位だった?」
「二位。カレンさんが三位みたい」
「スザクは化学、リヴァルは歴史が散々だったらしい」
「三年生のトップはミレイちゃんだって。すごいよね、ルルーシュ君もミレイちゃんもずっと一位だもの」
「まぁ、俺の自慢できるところといったら、これくらいだからな」
それと美貌、なんて自分で自信満々に言うものだから、ニーナはきょとんと目を瞬かせてしまう。けれど次には何度も何度も首を縦に振り、ルルーシュの方が目を瞬いた。
二人が話しているのは化学室の一番端の実験台だ。時は放課後、生徒会のないルルーシュは科学部のニーナを訪ねていた。テストが返却された日は、こうして互いの答案を見せ合うのが恒例となっている。彼らの学年ではルルーシュとニーナの二人が突出しており、学業においてはすでにレベルが違うとさえ言われていた。ちなみにスポーツではスザクとカレンが抜きんでており、この四人は対極とされている。
「この答え、正解なのに減点なんだね」
ニーナがルルーシュの数学のテストを指を差す。ルルーシュも身を乗り出し、ああ、とうんざりしたように呟いた。
「公式を用いなかったから駄目らしい。例え解法が何だろうと答えが一つになるのが数学なのに、本末転倒も良いところだ」
「これでも十分理解できるのにね。こっちは・・・・・・プラスが、マイナス?」
「初歩的ミスだ。自分でも何で見落としたのか分からない」
「ルルーシュ君って少しうっかりだよね」
「言うな。気にしてるんだ」
額に手をつき、ルルーシュはうなだれる。ニーナはそんな彼にくすくすと笑みを漏らした。綺麗で、頭の回転が速くて、きっと自分よりも本当の意味で賢いだろう彼の意外な一面に、魅了されずにはいられない。最初はかばってくれた優しさに惹かれたけれど、今は自信家な面も、うっかり屋な面にも心奪われている。こうして話している間も、ずっと高鳴りっぱなしの心臓を彼は知らないだろう。知ってもらいたいような、知られたら困るような、そんな気持ちでいっぱいだ。でもまだ今はもう少しだけ、こうやって笑い合っていたい。出来ればずっと。
「あ、あのね、ルルーシュ君。今度のテスト勉強・・・・・・一緒にやらない?」
二人でやった方が理解も深まるし、ミスも指摘しあえるだろうし、新しく買った参考書が面白いから紹介したいし、それに、それに。
理由を連ねるニーナに、ルルーシュは瞳を細める。柔らかく笑い、頷いた。ありがとう、と珍しくニーナの大きな声が化学室に響いた。
文化会系タッグ、ルルーシュとニーナ。教師陣もたじたじ。
2007年6月14日