ところであの人、名前なんだっけ?
「ずるい」
ミレイの不満に、ルルーシュは「またか」と内心で溜息を吐き出した。それを敏感に悟ったのか、テーブルの向かいでミレイはむうっとわざとらしく頬を膨らませる。
「いい加減にして下さい、会長」
「その口調」
「・・・・・・いい加減にしろ、ミレイ」
敬語を止め、名を呼べばミレイは満足そうに頷く。それでも次の瞬間には眉を顰めて「ずるい」と繰り返した。
「だって私がルルちゃんのお嫁さんになるはずだったのに。生まれる前から決まってたのに」
それなのに神子になっちゃうなんて、とミレイは心底不愉快そうに唇を尖らせる。時折思い出したように同じ話題で不機嫌になる彼女に、ルルーシュは呆れたように持っていたペンを置いた。
「仕方ないだろう。神子に選ばれた皇族は神に仕えなきゃならない」
「分かってるけど分かってるけど分かってるけどぉ!」
「皇妃にしてやれないことは悪いと思うけどな」
「・・・・・・それが理由じゃないって知ってるくせに」
ミレイの瞳が細められる。彼女の思惑を読み取り、ルルーシュは僅かにまなざしを伏せた。書類の束を整え、席を立つ。
「コーヒー、紅茶、日本茶にカフェオレ、ココア。何がいい?」
特別にいれてやる、と言えばミレイは変わらぬ声で答える。
「ルルちゃんのキスがいい」
「・・・・・・ミレイ」
「ルルちゃんが卒業するまでだって分かってる。夢くらい、見せてくれたっていいじゃない」
かたりと音を立てて立ち上がり、ミレイはルルーシュへと近づく。初めて出会ったときはミレイの方が背が高かったのに、今は見上げないと瞳が見れない。あの瞬間に恋をしたことを、婚約者になるはずだったんだよ、と言われてどんなに過去形を嘆いたか、きっと彼は知らない。
「・・・・・・俺は、応えられない」
「分かってる。それでいいのよ」
ルルーシュの首に腕を回し、ミレイはふっと笑った。
「好きよ、ルルーシュ。時間の許す限り一緒にいさせて」
覚悟は出来てる、と囁いて形の良い顎にキスを送る。今度は溜息ではなく軽い吐息が落ちてきて、ミレイは僅かに顔を傾けて背伸びした。触れる唇の優しさに、ほんの少しだけ泣きそうになりながら。ルルーシュの制服を、ぎゅっと握った。
私の皇子様を奪う魔女の名前はなぁに?
2007年6月14日