背中合わせの二人乗り
学校生活において、じゃんけんは大きな意義を持つ。カレンはその日、陸上部の友人たちとじゃんけんをして一人だけパーで負け、学園から一番近くのコンビニエンスストアまで買い出しに行く義務を得てしまった。部活が始まるまで三十分。短距離走のエースであるカレンには十分に行って帰ってくることの出来る時間だ。しかし面倒くさいことに変わりはない。制服のローファーだけをシューズに履き変え、昇降口前で軽くストレッチをする。クラウジングスタートの構えを取り、さぁ行くか、と一人頭の中で合図を起こしていると。
「何をしてるんだ?」
ピストルが鳴らされる直前に声をかけられ、カレンは顔を上げた。そこにいたのは同じクラスのルルーシュで、しかし彼は皇子という身分にはそぐわない乗り物にまたがっている。
「・・・・・・ルルーシュ君こそ」
「俺はコンビニまで買い出しだ。会長にじゃんけんで負けて」
あそこでグーを出していれば。悔しそうにルルーシュは眉を顰め、僅かに唇を尖らせる。そんな表情が可愛いとカレンは少し思ってしまったけれども、それよりも先に抱いた疑問をぶつけてみた。
「あなた、自転車乗れるの?」
流石にそれは侮辱と取ったらしい。紫の瞳が不快気に細まる。
「皇子は自転車に乗らないとでも? それとも俺の運動神経がそこまで劣っていると?」
「そうは言ってないわよ」
「言った。俺の心は酷く傷ついた。カレンは意地が悪い。よってコンビニまでの送迎を命じる」
サドルから降りて、ルルーシュはスタンドを立てて自転車を固定し、さぁどうぞと言わんばかりにハンドルをカレンに突き出す。ぽんぽんとサドルを叩いている様子は命令しなれていて、いっそ見事なほどだ。しかし目的地は同じ。だったら走るよりも自転車の方が楽。そう判断し、カレンはハンドルを受け取った。サドルにまたがると、ルルーシュは彼女と背を合わせるようにして荷台に座る。
「普通逆じゃない?」
「箱入りなんだ」
触れる背中がくすぐったい。漕ぎだせば後ろの付加は想像していたよりも軽くて、女の敵だわ、とカレンは思う。走り出した自転車は、周囲の生徒たちから向けられる視線にものともせず風を切る。髪を流すそれが気持ち良くて、カレンはペダルを踏む足に力を込めた。
坂道は全速力で下ってやると、意地の悪いことを考えながら。
帰りはルルを乗せたまま坂道を登りきったそうです。
2007年4月21日