廊下に反響する君の声





「ルルちゃんルルちゃんルルーシュっ!」
甲高いけれども耳触りとはまた違う声で名を叫ばれ、ルルーシュはうんざりとしながら足を止めた。一緒に歩いていたスザクも立ち止まり、リヴァルが瞳を輝かせて振り返る。人通りの多い休み時間の廊下、譲られた道を駆けて来るのはミレイ・アッシュフォード。この学園の生徒会長であり、イコール女帝でもある存在だ。彼女はルルーシュの前まで来るとぴたりと足を止め、まずは後ろのスザクとリヴァルに対して優雅に令嬢らしく微笑んだ。
「こんにちは、スザク君、リヴァル君」
「こんにちはっ会長!」
「こんにちは、ミレイさん」
「ん、良いお返事。移動教室? どこ行くの?」
「調理室っす! 今日はマドレーヌを作るんですよー」
「あら素敵!」
「うまく出来たら持ってきますんで!」
「ありがと、待ってるわ」
ミレイがにこりと笑うと、リヴァルは嬉しそうに頬を緩ませる。彼がミレイに対し淡い想いを抱いていることをスザクは承知していたので、挨拶だけで会話は譲った。まだ話したそうにしているリヴァルから視線を移し、ミレイはルルーシュの持っている紙袋の中を覗き込む。
「コーヒー、ハニーレモン、アプリコットジャム、それに抹茶。さすがルルちゃん、分かってるぅ! 今日のお茶菓子はこれで決まりね!」
「本当は紅茶シロップにも漬けたかったんですけどね。それより何の用ですか、会長」
あっさりと受け流すルルーシュは副会長であり、今期の生徒会は彼とミレイの二人で成り立っている。書記や会計がいなくとも彼らは息の合った処理を見せ、見事に学園を動かしている。また大公爵の爵位を持つアッシュフォード家はルルーシュの母、マリアンヌ皇妃の後見でもあり、ミレイとルルーシュは幼い頃から顔を合わせている幼馴染でもあった。
「そうそう、あのね、やっぱりアレはアレだからアレにしない?」
何の暗号だろうと思ったのは、おそらくスザクやリヴァルだけでなく、廊下で何とはなしに話を聞いていた他の生徒たちもだろう。けれどルルーシュは呆れたように片眉を上げた。
「その話はアレで決着がついたでしょう。今更アレをアレしたって結局はアレになるんですから、止めておいた方が無難です」
「無難なんて生徒会の辞書になし! ね、ルルちゃん! お願い!」
「駄目です。アレをアレにしたらアレをアレしなくちゃいけないでしょう。誰がやると思ってるんですか」
「もちろん手伝うわよ! だから、ね!?」
「本当に手伝うんでしょうね? 言っておきますけどアレするならとことんアレしますよ。それでもいいんですね?」
「もちろん! このミレイ・アッシュフォードに二言無し!」
「・・・・・・分かりました。いいですよ」
「ありがとう! やっぱり持つべきものは優秀な副会長ね! 放課後までに企画概要は完成させておくから!」
ここまで来てようやく、スザクは彼らが生徒会の仕事について話していたことに気がついた。それにしても代名詞ばかりで成り立ってしまう会話は、もはや夫婦というよりもエイリアンのようで、並び立つミレイとルルーシュは限りなく同類なのかなぁ、とスザクは思う。
予鈴のチャイムにミレイはぱっと顔を上げる。周囲の生徒たちもざわざわと動き出して、彼女も自身の教室に帰るべく手を振った。
「じゃあねルルちゃん、また放課後。リヴァル君たちも美味しいマドレーヌを期待してるわよ?」
「もちろんっす!」
意気込んだリヴァルにミレイは罪作りにもウィンクを一つ投げ、行きよりは緩やかなスピードで駆けていく。その背にルルーシュが声をかけた。
「会長、新しいグロス、よく似合ってますよ」
振り向いた彼女はぱっちりと目を瞬いて、艶やかな唇で嬉しそうに笑った。

「ルルちゃん、愛してるわっ!」





ミレイさんは新色グロスを見せに来たんです。
2007年4月11日