制服に包まれた君の素顔
「そこの奴、どけっ!」
上から聞こえてきた声にカレンが顔を挙げると、一人の男子生徒が降ってきていた。文字通り降ってくる。しかも自分の真上に。反射的に両腕を出して構えると、一瞬後に受け止めた衝撃が全身に響く。膝を少し屈めはしたけれども地に着くことはなく、カレンは男子生徒を受け止めることに成功した。それが信じられないのか、彼はきょとんと紫の目を瞬いて、深く深く溜息を吐き出す。
「・・・・・・この場合、俺は礼を言うべきなのか?」
高校生男子が、同じ年の女子に受け止められてしまって。しかもお姫様抱っこという女の子憧れの格好で。沽券について悩んでいる様子に気づき、カレンは思わず笑ってしまった。
「もう少し食べるようにした方がいいわよ、ルルーシュ君」
「・・・・・・そうする」
ちくしょう、と皇子にあるまじき言葉遣いでルルーシュは悔しげに吐き捨てた。その様がまるで子供みたいで、カレンは声を上げて笑った。
ルルーシュは礼を告げてカレンの腕から降りると、お詫びと言ってジュースを奢った。二人して自動販売機の前でプルタブを開ける。特にルルーシュは喉が乾いていたのか、ごくごくとスポーツ飲料を半分くらい一気に飲み干した。手の甲で拭われた唇が色鮮やかで、何のグロスを使ってるのだろうとカレンはあり得ないことを考えてしまう。
「ねぇ、さっき何で上から降ってきたの?」
問いかけに、ルルーシュは見事に顔を歪めた。
「天文部の奴らに追いかけられてた。俺を捕まえたら部費を上げてやるって会長が勝手に」
「それって天文部だけ?」
「ああ。陸上部は関係ないぞ」
「何だ、残念」
肩をすくめるカレンは陸上部に在籍している。短距離とハードル走のエースだ。そしてルルーシュは部活ではなく生徒会に在籍していた。今期の生徒会は会長のミレイ・アッシュフォードと副会長のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだけで成り立っており、見目麗しく眼福で、そして限りなく有能な生徒会と評判だった。しかしそんな生徒会は様々なイベントを行うとしても有名だった。遊びのそれらはミレイの発案で決まっているのだけれども。
「いつもはスザクのとこに逃げるんだが、剣道部は今日は関東大会だからな。会長もそのことを忘れてたんだろ」
だから校内を延々と追いかけっこ、とルルーシュは嫌そうに肩を竦める。さっきも庇の上に隠れようと思ったら足を滑らせてしまったらしく、そのことを聞いたカレンは噴き出した。
「・・・・・・どうせおまえたち体育会系に文化系の辛さは判らないさ」
ルルーシュがふてくされたように呟くものだから、カレンは一層肩を振るわせてしまう。皇子だろうと副会長だろうと、やはり彼はただの少年なのだ。澄ました顔で無茶をして、そして拗ねる普通の男子。ジュースを全部飲み干し、カレンは缶をゴミ箱に投げる。見事入ったそれに「ナイッシュー」と声がかかった。しかしルルーシュは自らの能力を知っているらしく、ちゃんと歩いていってゴミ箱へと捨てた。その制服の腕をカレンは両手で捕まえる。
「じゃあ今日は枢木君の代わりに、私があなたの騎士になってあげる」
守ってあげるわよ、皇子様? と茶目っ気にウィンクをすれば、ルルーシュはきょとんと目を瞬かせる。しかし背後から駆けてくる天文部員たちに気づいたのか、さぁっと顔色を変えた。カレンは笑って、彼の腕を握ったまま走り出す。
「ねぇ、やっぱり抱えてもいい?」
「お、断り、だっ!」
懸命についてくるルルーシュに、カレンは声を上げて笑った。そのうち抱き上げちゃおう、なんてことを考えながら。
やっぱりあなた、お姫様かもしれないわ!
2007年4月10日