お昼休みダッシュ
「スザク、おまえの助けが必要なんだ」
三時間目の歴史の授業が終わってすぐ、てくてくとスザクの席まで歩いてきたルルーシュは笑顔でそう言った。見事なまでのロイヤルスマイルに、周囲の生徒たちが男女問わず見惚れている。確かにスザクも綺麗だと思うけれども、長年の付き合いから感じるのは嫌な予感に他ならない。
「・・・・・・どうしたの、ルルーシュ」
「弁当を忘れた」
「はいはい、昼休みに購買に走ればいいんだね」
了解、と両方の手のひらを仰向ければ、ルルーシュは満足げに頷いて、スザクの前の席に座る。手渡されたのは千円札で、スザクはおとなしくそれを制服の内ポケットにしまった。
ルルーシュは運動神経が良くない。もちろんそれはスザクと比較しての話であり、一般的な男子高校生の平均レベルは保っている。けれども昼休みの購買は戦場といっても過言ではなく、自らが行けばパンどころかジュース一つ買えないだろうことをルルーシュは理解しているし、その点はスザクもしっかりと心得ていた。
「コロッケパンとメロンパン、それとミルクティーな」
「それだけ? もっと食べないと駄目だよ。ルルーシュはただでさえ細いんだから」
「うるさい。おまえみたいな体育会系と一緒にするな」
むすっと唇を尖らせる。ルルーシュはルルーシュで自分の体力の無さを至らなくは思っているのだ。しかし筋肉が付き難い体質らしく、過去の努力はすべて無駄に終わっている。だからこそ彼はスザクを利用することにためらいがなかった。
「何々、スザクってば昼ダッシュ? じゃあ俺のミルクプリンもよろしく!」
ちゃりんと小銭と一緒にリヴァルがルルーシュの後ろから顔を出す。はいはい、とスザクは肩を落として受け取った。ルルーシュは楽しげに制服の足を組み変えている。
「今日は水曜だからな、一年三組と四組が四時間目に体育だ。着替える前に買いに来る奴が多いから気をつけろよ。あぁそれと三年二組の化学だな。あの先生は終了時刻より必ず三分早く終わらせる。でも化学室から購買までは距離があるから、おまえなら平気だろ」
「へぇ、さっすがルルーシュ!」
「情報収集は基本だからな」
何の、とスザクは突っ込みを入れたかったけれども、ルルーシュは唇を吊り上げて笑っていて、リヴァルはこれ幸いと言うかのように次の数学で誰が当たるかを尋ねている。ルルーシュがすらすらと教師の傾向から指名される生徒の名を挙げ連ねると、密かに話を聞いていたらしいクラスメイトの何人かが慌て始めた。リヴァルとスザクもその中に入っており、急いで机の中からノートを引っ張り出す。ルルーシュのこの手の読みが外れたことはない。しかしノートは真っ白。教科書をぱらぱらめくっても予習していないスザクに解法は分からず、どんよりと肩を落とす。怒られる覚悟を決めるか、とうなだれていると、いつの間に筆箱を開けたのか、勝手に使っていたシャーペンをルルーシュが転がした。ノートの上半分に、逆さまの数字と証明が並んでいる。
「コロッケパンとメロンパンとミルクティー、忘れるなよ」
「カスタードマン、半分こしない?」
「美味いのか?」
「実は僕も初めて」
チャレンジだな、と笑ってルルーシュは立ち上がる。ちょうどチャイムが鳴って、生徒たちはばらばらと席につきだした。数学の教師が入ってくる。
スザクが指名され、ノートを逆さまにして答えるのはその二十分後。約束通り購買へとダッシュするのは、それから五十分後のことだった。
ルルーシュは皇室御用達シェフの弁当、スザクはお手伝いさんの弁当、リヴァルは学食購買が基本です。
2007年4月9日