忘れもしない入学式
シャーリーがルルーシュという少年を知ったのは、アッシュフォード学園の高等部入学式だった。特別な事情がない限り全寮制を採用しているこの学園は、ほとんどが初等部からの持ち上がりなのに対し、高等部の入学式で新入生代表の挨拶を行ったのは、見たことのない生徒だったのだ。絶対に外部生だと、シャーリーは彼を見た瞬間に思った。何故なら彼は際立って美しい顔立ちをしており、男らしい野卑などかけらもなく、まるで芸術品のように優れた容姿をしていたのだ。壇上に上がった少年に、女生徒だけでなく男子生徒までもが感嘆の溜息を吐き出す。挨拶を読み上げる声すら美しくて聞き惚れていると、彼は最後に爆弾を落とした。いや、彼にとっては己の名を名乗っただけなのだろうけれども、それはシャーリーにとって紛れもない爆弾だった。
彼女が好きになりかけた少年は、神聖ブリタニア帝国の皇子様だったのだ。
アッシュフォード学園は、日本にありながらもブリタニア大公爵アッシュフォード家が設立したということもあり、人種に関係なく広い門戸を開いている。中にはアッシュフォード家の令嬢であるミレイや、日本首相の息子である枢木スザク、そして数は多くないが、在日の中華連邦やEUの民なども在籍していた。
そこに現れたブリタニア帝国の第十一皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。彼の母親であるマリアンヌ皇妃の後見がアッシュフォード家だということを考えれば不思議ではないのだろうが、本国から離れた異国の学校に皇子が通うなんて聞いたことがない。しかしルルーシュはどうやらスザクと知己だったらしく、彼らは入学式直後から実に親密な関係を周囲に知らしめていた。しかし、皇族を前に普通の一般人は萎縮してしまう。それ故にルルーシュは腫れ物扱いで、スザクとミレイを除いて彼に近寄ろうとする輩はいなかった。みんな、麗しい皇子と仲良くはなりたいのだ。しかし彼の放つ美しさと洗練された物腰に、どうも気後れしてしまい近づくことが出来ない。シャーリーもその一人だった。
しかしある日、教師に指名されて完璧な答えを黒板に書いたルルーシュの前に、シャーリーはペンを落としてしまった。クラスメイトたちが息を飲んで見守り、シャーリーも慌てて立ち上がって謝罪しようと思ったが、それよりも早く、ルルーシュはペンを床から拾い上げてしまった。軽く埃を払い、彼はシャーリーへと差し出す。
「君のだろう?」
「あっ・・・・・・! あああありがとうございます、ルルーシュ殿下!」
直立不動で礼を述べたシャーリーに、ルルーシュは僅かに紫の瞳を細めた。本当に僅かな仕草だったのに、シャーリーはその瞬間、悟ることが出来た。悟ることが出来たのだ。だからこそ受け取ったペンを握りしめ、震える声でやり直す。今度はどうか、彼が望むように。
「あ、あの、ありがとう! ・・・・・・ル、ルル!」
教室がざわめき、教師も身をこわばらせる。さすがに愛称は駄目だったかな、とシャーリーはすぐに後悔したけれど、一瞬伏せられた瞳が距離を望んでいないように見えたのだ。今度は見開かれた瞳が二度瞬きを繰り返し、彼は笑った。
「どういたしまして、シャーリー」
美しく、どこか嬉しそうに笑ったルルーシュの、その瞬間の笑顔だけは自分のものだとシャーリーは思った。相手が皇子だろうと関係ない。恋はすでに始まってしまった。
ルルーシュの拾ってくれたペンは、その日からシャーリーの宝物になった。
努力の末、一番仲の良い女子の座をゲット。
2007年4月7日