彼と初めて会ったとき、なんて綺麗な子だろうと思った。時を共にしていく後、なんて苛烈な子だろうと思った。その美しい外見からは想像も出来ない感情の起伏を、彼は小さな身の内に宿していた。そんな彼が愛しかった。彼が笑ってくれるのなら、何でもしようと思った。そのために本家と絶縁し、仇であるブリタニアの軍に入った。すべては彼のため、彼に笑ってもらいたい自分のため。いつか再会出来たらいいと思っていた。愛しかった。再会してさらに想いは募った。
彼が笑ってくれるのなら、何でも出来ると思っていた。
When The Saints Go Marching In
4.ナイトの衝撃
「ショックかい、枢木准尉? それはそれはショックだろうねぇ、大事な幼馴染がブリタニアの皇子様だったなんて。それとも秘密にされてた方かな? でも仕方ないよ、彼らは皇族なんだから、身を守る嘘は義務なんだよ」
テレビの中に、彼がいる。漆黒の髪、紫電の瞳、陶磁の肌を礼服で隠し、まとうマントは深い紅。長きの不在を謝罪し、帰ってこられた喜びを語る。一昨日、自分の名を呼んでくれた、その声で。またな、と言った、その声で。
「ロイドさん、知って・・・・・・?」
「まぁねぇ、だって君が探してほしいって言ったんじゃないか。見つけてまさかと思ったよ。生きていた第十一皇子、皇室から逃げていた第十一皇子」
「逃げ、て・・・・・・?」
「そうだよぉ。ここだけの話だけど、彼の母君マリアンヌ皇妃は、テロと見せかけた他皇妃による暗殺だったってもっぱらの噂だからねぇ。第十一皇子が皇族を嫌うのも無理ない話だよ。その結果、彼らは日本に送られちゃったわけだけど」
テレビの中で、彼が語る。七年前の戦乱に巻き込まれたこと、保護されたこと、妹と密やかに生きてきたこと。伏し目がちの瞳。漂う悲しみの日々。胸が切なくなるような話し方で、彼は今までの己を語る。
「僕も生きてるとは思わなかったよ。君に頼まれて探してたら、偶然見つけちゃってねぇ。驚いたといったらないよぉ。マリアンヌ皇妃そっくりの美人さんになっちゃってまぁ!」
「・・・・・・僕、が・・・?」
「そう、君だよ、枢木准尉。君の親友を想う気持ちが、彼を皇子だと世に知らしめる結果に繋がった」
「違う! 僕は、そんな・・・・・・っ」
「知ってるよぉ。君は親友の心配をしただけで、偶然殿下を見つけちゃった僕は軍人の仕事をしただけ。殿下を皇室に引き戻すと決めたのはシュナイゼル殿下で、戻ると決めたのは第十一皇子。みんな自分の仕事をしただけなんだよ。例えそれが、望まない結果になってしまったとしてもねぇ」
テレビの中で、彼が微笑む。先日のシンジュクゲットーであったテロリストとの戦闘に巻き込まれ、その際に軍人に保護されたこと。そして第二皇子であるシュナイゼルが自分を見つけ、覚えていてくれたこと。すぐに皇室に復帰で来るよう手筈を整え、妹の手厚い看護も引き受けてくれた。優しい兄への感謝の言葉を、彼は嬉しそうに微笑み綴る。
「気にしなくていいよ、枢木准尉。第十一皇子は君を責めない。むしろ黙っていた自分が悪いなんて思っていらっしゃるみたいだしねぇ。彼はアレだね、大事なものは宝箱にしまっておくタイプ。誰にも見せないように奪われないように、しまって隠して、一人でそれを守りきろうとするタイプだ。枢木准尉、君はそんな彼の宝物なんだよ。だから彼は君を責めない。絶対に彼は、君を責めない」
「そん、な・・・・・・」
「ちなみに僕は、宝物は食べちゃうタイプ。食べて体内で一つになって、一緒に一生を終えるだなんて考えただけで素敵だと思わなぁい?」
「・・・・・・」
「君は、どんなタイプかな? 見たところ大事なもののためなら何でも出来るタイプみたいだけど、優しいから守りたいものがたくさん出来て、閉まらなくなった宝箱から宝をころころ落としちゃうタイプかもねぇ。でも君は守るのに一生懸命で、そのことにも気づけない。落ちた宝は世間を知って、自分で立ち上がって歩き出す。生き方なんて人の数だけあるからねぇ。責めるのも恨むのも、もちろん勝手に悲しむのもお門違いだと思うよぉ。あ、これ、僕の持論ね?」
テレビの中で、彼が涙する。再会することなく亡くなってしまった兄、クロヴィス。幼い自分にも優しくしてくれた第三皇子。チェスの相手をしてくれた。自分と妹、そして母の肖像画を描いてくれた。優しかった兄。亡くなってしまった彼を惜しみ、涙する姿は痛ましかった。少年らしい硬質さの中に子供のようないたいけさが姿を現す。抱きしめたくなって、腕が動く。
「・・・・・・ルル、」
「あぁ、ダメダメ! 今は敬称をつけなくっちゃ。彼は君の親友だけど、もう殿下に戻っちゃったんだからねぇ。ブリタニア皇帝の第十一皇子、十七位皇位継承者。マリアンヌ皇妃の忘れ形見、皇室の切り札、奇跡の生還者。黒の皇子、僕の王!」
高らかなロイドの声音の向こう、テレビの中に彼がいる。涙ながらに毅然と顔を上げ、麗しき殿下は民衆に誓う。
亡き兄クロヴィスの仇、ゼロをこの手で捕まえる―――と。
彼が皇子だということも、それを隠されていたということも、怒りは全然湧いてこない。悲しみだけが胸に募った。それが何から来るものかもスザクには分からなかったけれども。
ただ、誇らしく彼を王と言えるロイドがうらやましかった。ルルーシュ、ともう呼べないことが寂しかった。
君の笑顔の裏に、君の涙の裏に、何があるのかも知らないで僕は。
2006年12月6日