その後、世界は一転した。
黒の騎士団のリーダーであるゼロがブリタニアの皇女であったと身分を明かし、神楽耶が日本皇族の内親王であると述べ、二人はエリア11のブリタニア帝国からの独立と、日本の復国、そしてブリタニアへの徹底抗戦の意志を世界中に宣言した。彼らは出来る限り穏便に決着をつけたいのだと、拘束していた第二皇女コーネリアの身柄を無事に返還することで示し、帝国からの返答を待った。
ブリタニア皇帝は当然ながらそれらを一蹴し、開戦を宣言した。しかし反ブリタニア国家であるEUや中華連邦までもが日本の側へとついたため、危機感を募らせた第二皇子が撤回を進言するも、皇帝は頑なに拒否をした。故に国民の憂いと平和を思った第二皇子は、父親を殺すという手段で開戦を止めた。その行動は世界中に受け入れられ、彼は新たなブリタニア皇帝の座につき、解放を望むナンバーズのエリアをすべて自由にした。
戦いは終わった。世界は新たな時代を迎える。





and I love you
Last.そして、君を愛しています





くたくたの身体を引きずって自室に戻ると、スザクはネクタイを引き抜いてソファーに腰を下ろすよりも先に、デスクの上のテレビ電話のスイッチを入れる。自然と鼻歌を歌いながらプッシュボタンを押して、のんびりとコール音が鳴り響くのを待った。時刻は夜の七時。日本ではちょうど半日進んだ朝の七時だから、ルルーシュもきっと起きているだろう。スザクにとっては夜の、ルルーシュにとっては朝のこの通信が、今の二人の連絡手段だった。ぷつっと音が鳴って、画面にルルーシュの私室が映る。
『はいっ!』
しかし映った本人に、スザクは思い切り噴き出した。
「る、るるるるるーしゅっ!? な、何その格好!」
『うるさいっ! 俺の着替え中にかけてきたおまえが悪いんだ!』
「で、でもちょっとくらいは隠そうよ! あぁでも隠さないで欲しい気もする!」
『馬鹿正直に言うな! 少し待ってろ!』
着替え中だったらしく、上下レースの下着姿で現れた相手に、スザクは顔を真っ赤にする。ルルーシュがクッションを投げつけて画面からフェイドアウトしていき、スザクだけが残された。おそらく向こうの画面にはゆだったスザクが映っているのだろう。耳まで染め上げて、スザクはデスクに突っ伏した。一日の行程を終えて疲れた身体に、あの姿態はきつすぎる。夜でよかったとスザクは心底思った。これが朝だったら定時までに出勤出来る自信がない。現在の主であるブリタニア皇帝シュナイゼルと、上司であるロイドに何があったのかと根掘り葉掘り聞かれて遊ばれること間違いない。それを想像してスザクは自らを落ち着ける。
第一、最後に触れたのはもう半年以上前なのだ。機能を再開させた日本政府の外相という立場についたルルーシュがブリタニアに表敬訪問したとき、シュナイゼルが都合をつけてくれた一晩。忍んで会って、触れ合って話をした。年に二度会えれば良い方。自他共に認める遠距離恋愛を二人はしている。
『悪い、待たせた』
再度画面に映ったルルーシュは黒のパンツに白いワイシャツを羽織っている。それでもボタンは上から三つまで外れており、淡いブルーの下着がちらちらと見え隠れしていて、何の拷問だろうとスザクは思った。片手に満たないくらいしか触れたことのないスザクにとって、ルルーシュの艶姿はサービスというよりも、手の届かない距離にいる分、雲の上の存在に近い。
『スザク?』
「・・・・・・何でもない。おはよう、ルルーシュ」
『ああ、おはよう。そっちはまだ夜だろう?』
「うん。今日は早く解放してもらえたんだ」
『シュナイゼル兄上はおまえが気に入ったみたいだからな。昔からそうなんだ。気に入った相手には意地悪をする』
「それ、あんまり嬉しくないなぁ・・・・・・」
現在のスザクは立場上、シュナイゼルの騎士を拝命している。それは彼の「問いかけ」に対し、スザクが満足のいく答えを返せたことへの褒美らしい。確かにシュナイゼルについていれば、可能な限り多くルルーシュと会うことも出来る。自分の返した「答え」を思い出し、スザクは笑った。
「ルルーシュもシュナイゼル様に気に入られてるよね」
『まぁ、な。兄上は俺の容姿がお好みなんだ』
「へぇ?」
『兄上の初恋は、俺の母様らしいから』
あっさりと衝撃の事実を述べ、ルルーシュは黒髪をかきあげる。ゼロであった頃は短かったそれも、今は肩を越すくらいになっている。スザクが願って伸ばしてもらっているのだ。もちろん短いのも好きだけれど、自分たちのすべての始まりとなった髪だから、かつてと同じ長さをまた見てみたい。
『コーネリア姉上にクロヴィス兄上、それにユーフェミアは元気か?』
「うん。お三方とも元気だよ。クロヴィス殿下は、またルルーシュの絵を描きたいっておっしゃられてた」
『そんな時間はないと言っておけ』
「そう言うだろうなぁって思ったから言ったんだけど、『それなら私が日本まで出向こう』だって」
愛されてるね、と言えば、ルルーシュは少しだけ嫌そうに眉を顰めるが、それがポーズであることは一目瞭然だ。彼女は自身が母国を裏切ったことを、後悔はしていないが申し訳ないと思っている。そんなことないのに、とスザクは笑った。コーネリアは自分を負かしたルルーシュに会いたがっているし、ユーフェミアだって施政者を目指す者として話を聞いてみたいと言っている。だけどスザクはそれを伝えなかった。一人占めしたいという、小さいけれど絶大な嫉妬心で秘密にしてしまう。
手元の時計が時間を告げる。ルルーシュはこれから政務に出なければならず、画面の中でも彼女は飾り気のないネックレスをし、髪を梳かしてスーツのジャケットを羽織る。ボタンが一番上まで留められているのを確認し、スザクは手を振った。
「無理しないでね。一人で溜め込む前に、神楽耶なり桐原さんなりに相談すること」
『分かっている。一人で国を動かそうとは思わない。それでは前ブリタニア皇帝と同じだからな』
「朝ご飯はちゃんと食べて、夜は早寝だよ?」
『分かってるって。おまえこそ騎士は身体が資本なんだから気をつけろよ』
かつては聞き入れてくれなかった言葉も、今のルルーシュは笑って聞いてくれる。画面に伸ばされた指先に、スザクも同じように手を伸ばした。感じるのは機械の冷ややかな温度だけれど、それでも心は温かい。額を合わせて、互いに笑う。
『・・・・・・浮気するなよ?』
「ルルーシュ以外に興味なんてないよ」
『馬鹿』
機械越し、唇を触れ合わせる。目が合って照れたように目元を染めるルルーシュが可愛かった。名残惜しげに通話が切られるまで手を振って見送り、真っ黒に変わったテレビ電話を前に、スザクはぐっと腕を伸ばす。
傍にはいれないし、すぐに触れられるわけじゃない。駆け付けることだって出来ないけれど、それでも心はこんなに近くある。そんな自分が愛しくてスザクは笑う。

「・・・・・・幸せだなぁ」

窓から見上げる空はいつかの夜のように月が鮮やかで、改めて想いを自覚する。頑張ろう、とスザクは自らの手を握りしめた。
きっとこれは至上の恋だと、今更ながらに自覚しながら。





この世のすべてに、感謝を。
2007年4月2日