ただ、好きだったのに。彼女が笑っていてくれれば、それだけで良かったのに。
いつから恋は、こんなにも醜くなってしまったのだろう。
笑わせたいと願ったのに。傷つけたいわけじゃ、決してないのに。
生きていてくれてただ、嬉しかったのに。
and I love you
10.果てた祈り
『枢木准尉、稼働率が過去最悪だよぉ? 真面目にやってる?』
「・・・・・・すみません」
モニター越しに上司の顔が見え、スザクは緩慢に顔を上げる。けれどその様子にロイドはむうっと眉を顰め、不思議そうに首を傾げた。
『今日は前回の功績を認められて、最初から戦陣に突入できるんだよ? 君の大嫌いなイレブンを山ほど殺せるってのに、何でそんなに浮かない顔してるのかなぁ』
「いえ・・・・・・すみません。何でもありません」
『君には紅蓮弐式のデータを取ってもらわなきゃいけないんだからさぁ、もっと気合入れて』
『ロイドさん!』
画面の右から茶色の腕が伸びてきて、ロイドの頭を掴んだまま左へとフェイドアウトしていく。代わりに現れたセシルは、心配そうな色を瞳に浮かばせていた。
『スザク君、大丈夫? 体調が悪いなら、申請すれば後方支援に回してもらえるかもしれないけれど』
「いえ、行きます。紅蓮弐式の相手を出来るのはランスロットしかいませんし。僕なら大丈夫です」
スザクが頷くと、スピーカーを介してコーネリアの出陣が伝えられる。二度目のナリタ攻防戦。敗退は許されず、攻めるしかない。今度こそゼロの首を。ゼロの首を取って、ルルーシュに。
トレーラーから走り去っていく白い機体に、ロイドは声に出して笑った。セシルがいぶかしそうに視線を向けるのにも構わず、心底愉快そうに歓声を上げる。
「『僕』だってさぁ! やっぱり彼は軍人じゃないよ! たった一人のための王子様だね!」
ランスロットの前には、すぐに緋色の機体が現れた。黒の騎士団でも、ランスロットに対抗できるのは紅蓮弐式しかいないという認識なのだろう。性能のレベルは互いに等しく、パイロットもエース級。ぶつかり合う力は激しくて、けれども他のことを考えてしまうスザクの方が劣勢だった。輻射波動である右腕を避けながら、必死にヴァリスを乱射する。
「殺さなきゃいけないのに・・・・・・っ!」
決意を固くして操縦桿を握っても、心は思い出してしまう。頼りない手首。押し付けた身体の細さ。初めて触れた、唇。
「殺さなきゃいけないのに!」
柔らかかった。だけど冷たかった。喜びも甘さもなかった。ただ重ねただけの接触。初めてだったのに。彼女との、初めての口付けだったのに。
「どけよ! おまえがいるからっ!」
離れて合わせてしまった瞳は、絶望と悲哀に染まっていた。怖くて、恐ろしくて、涙がこぼれて、謝ることも出来ずにその場を去った。
「おまえたちがいるから! だからルルーシュはっ! だから僕は・・・・・・っ!」
大切にしたかったのに。笑っていてほしかったのに。幸せでいてくれたなら、それだけで良かったはずなのに。
「死ねよ・・・・・・! 死ねっ!」
もう、好きとさえ言えない。大切にしたい恋だったのに。
『ブリタニア軍に通達する。私の名はゼロ。我々黒の騎士団は、コーネリア・リ・ブリタニア皇女の身柄を拘束した。皇女に危害を加えられたくなければ、全軍ただちに攻撃を止め、撤退しろ。おまえたちが引けば、皇女の安全は保証する』
繰り返す、とゼロの声がランスロットの中に響く。割って出てきたモニターには、グロースターを破壊され、後ろ手に拘束されているコーネリアの姿が映っている。猿轡を噛まされているのは、自害させないためなのか。同じものが黒の騎士団にも届いているのだろう。紅蓮弐式が動きを止める。今なら殺せるかもしれない。そう、思うのに。
『・・・・・・撤退よ、スザク君。ユーフェミア副総督の指示です』
命令が下され、ランスロットの自由は奪われた。緋色の機体が高らかに笑っているような気がした。
これは、罰なのだろうか。君を傷つけた、僕への。
2007年3月19日