黒の騎士団は日本製のナイトメアフレーム無頼を有しているけれども、それもランスロットの敵ではなかった。数々の機体を脱出機能が働く前にコクピットを貫いて屠った。黒の騎士団と巻き込まれたイレブンの死亡人数を聞き、スザクはうっとりと笑った。
これでまた、ルルーシュとの未来に近づいたと喜んで。





and I love you
6.戦場に愛情





ブリタニア軍はどこも浮かれた空気が漂っていた。前総督だったクロヴィスを撤退に追い込んだ黒の騎士団のアジトを一つ潰したのだ。破壊したナイトメアも多く、敵戦力の正確な大きさは分からないけれども、打撃となったのは間違いないだろう。
ランスロットのパイロットとして戦場を駆け、最も多くの敵を殺したスザクには、コーネリアからじきじきに言葉も下された。自分が彼女に好かれていないことをスザクは知っている。ナンバーズと呼ばれる人種であること、そして何よりコーネリアの珠玉であるユーフェミアがスザクに好意を寄せていることが何よりもの理由だった。それを盾にし、スザクは彼女と渡り合ってきた。いつでもおまえの妹を傷つけることが出来るのだと、従順の影にそっと示して。
「スザク」
ユーフェミアが己の騎士に声をかけただけなのに、コーネリアは妹の後ろで眉を顰める。いい様だとスザクは思う。それを隠し、にこやかな笑みを浮かべて主を見つめる。
「何でしょう、ユーフェミア様」
「これから学校に戻られるのですか?」
「いえ、ランスロットの調整をするつもりです。次の戦闘のために万全を期したいので」
覆される隙のない答えを返せば、そうですか、とユーフェミアが表情を少しだけ沈ませる。彼女から寄せられている好意の種類に気づいていないわけがない。その思慕はあまりに純粋で、そしてスザクからしてみれば笑ってしまいそうなものだった。恋愛など、すでにルルーシュ以外には意味もない。
「学校の方はいかがですか? お友達などたくさん出来ましたか?」
「はい、おかげさまで。同じ年の友人は初めてなのでとても嬉しいです。ユーフェミア様にはこのような機会を与えて頂き、誠に感謝申し上げます」
浮かべた笑顔の質の差はスザク自身気づいている。こんな顔は決してルルーシュには向けないだろう。対外的な表面だけの笑み。けれどそれしか知らないユーフェミアは、うっすらと頬を染めて笑い返した。コーネリアの瞳が細まる。いい様だと、スザクは思う。



ランスロットの調整はロイドやセシルの仕事であり、パイロットであるスザクに出来ることなどほとんどない。それでも建前として用いたのは、単にユーフェミアの近くにいたくなかったからだ。ランスロットのパイロットシートに軍服のままの背を預け、スザクは手の中の携帯電話を見つめる。時刻はすでに午後四時半を回っている。
「・・・・・・この時間じゃ、これから行ってもすれ違いになりそうだしなぁ」
昨日は定期検診で休みだと言っていたが、何もなければ今日は学校に来ているはずのルルーシュを思い、溜息を吐き出す。それを目ざとく聞き止めたロイドが笑いながら問うてくる。
「枢木准尉はすっかり学校にご執心だねぇ。何か面白いことでもあるの?」
「苗字で呼ばないで下さい、ロイドさん」
「好きな子でも出来た?」
「ルルーシュの他に? それこそあり得ない」
軽く笑ってみせれば、ロイドはにやにやと眼鏡の奥の目を細める。スザクの手の中にある携帯電話は軍から支給されているもので、ルルーシュの電話番号やメールアドレスなどは一切登録されていない。足がついて、彼女が軍に見つかるのを避けるための判断だった。情報はすべて、違うことなく記憶に刻み込んでいる。
「今回の戦闘、ゼロは出てこなかったねぇ」
「そうですね。さっさと捕まえたいのに」
「でも、『奇跡の藤堂』がいたみたいですよ。コーネリア総督の親衛隊隊長、ギルフォード氏とやりあったって聞きましたし」
手元のバインダーから顔を上げ、セシルが手に入れてきた情報を伝える。「奇跡の藤堂」というイレブンについてはスザクも知っていた。七年前の日本とブリタニアの戦争において、圧倒的な武力差でありながらも局所で勝利を飾った伝説の男。ルルーシュの婚約者になる前、日本で暮らしていたころに直接対面したこともある。静の中に武を持つ人だと思い、幼心にも憧れたものだ。
「だけどあの見事な逃走、あれは『奇跡の藤堂』じゃないね。間違いなくゼロの指示だよ。隙間なく包囲してたのに撹乱された挙句、まんまと逃げられちゃってさぁ。やっぱりランスロットが藤堂の相手をするべきだったよぉ。進言しても譲ってくれなさそうだけど」
「構いませんよ。どうせ総督だって自分が殺されそうになればランスロットを呼ぶでしょうし」
「そうだねぇ、是非とも呼んでもらいたいものだねぇ。ランスロットのデータ収集のためにもさぁ」
スザクは手元の携帯を弄び、ロイドは機器に指を走らせる。交わされる会話は不敬罪として取られても仕方のないものだが、セシルは溜息を押し殺して肩を落とした。かつて人格を疑わせる発言をするのは上司の専売特許だったが、今は部下も同様だ。しかしスザクの過去を思えば、それも仕方ないとセシルは思う。
日本から人質として差し出され、意に沿わぬ婚約を結ばされ、その相手と好き合った途端に他皇女によって切り離され、そうこうしている間に恋した少女は殺されてしまった。しかも自分の父親と母国によって。歪むのも当然だろう。だからこそ彼の「イレブンを皆殺しにしたい」という希望に、特派の後ろ盾であるシュナイゼルは手を貸している。かの第二皇子はスザクやロイド以上に判らない。果たして、彼の目的は一体何なのか。
「次はゼロ、出てくるといいですね」
「本当にねぇ。早くエリア11とおさらばして、もっと過激な地帯に行きたいものだよ」
「そうすればランスロットのデータがもっと取れるのに?」
「おおあたりぃ!」
笑う二人をセシルは見つめる。あの上司だからこその、この部下かもしれない。かつて特派に在籍していた憧れの女性を思い出し、セシルはそっと溜息を吐き出した。





望むのなら奪え。本当に欲しいものならば。
2007年3月11日