「スザクは今まで学校に通ったことがないと仰っていましたでしょう? 折角の機会ですから、是非」
ユーフェミアのその言葉で、スザクの学園への編入は決定した。馬鹿馬鹿しいと心底思う。学生をやるよりも軍人として一人でも多くのイレブンを殺したいというのに、慈愛の皇女とやらは、そんなスザクの心境に思い当たりもしないらしい。それも当然かとスザクは思う。彼はユーフェミアの前では当たり障りのない会話と笑顔だけを振りまいているのだから。正直、前を行く彼女の背を何度突き落としてやろうと思ったことか。憎しみは七年の時を経て、酷く醜く育ってしまった。ルルーシュが亡くても変わらない。一層酷くなったそれを隠して、スザクは笑う。
「はじめまして、枢木スザクです。どうぞよろしくお願いします」
向けられる視線のいぶかしさにも、もう慣れた。心中で見下す余裕さえ、今のスザクにはあったのだ。





and I love you
2.どうか誰か、運命と言って





教師からスザクは名誉ブリタニア人であり、第四皇女ユーフェミア副総督の専属騎士だと説明されたことにより、生徒たちの視線はたちまち真逆へと切り替わった。休み時間の度に馴れ馴れしく話し掛けてくるクラスメイトに適当な言葉を返しつつも、スザクは初日から嫌気がさしていた。出来る限り特派の任務を入れてもらい、学校には顔を出さないようにしよう。スザクがそんなことを考えていると、教室の後ろの扉を開いて、赤い髪の少女が入ってくる。スザクに話し掛けていたシャーリーという名の女生徒がぱっと顔を上げた。
「カレン! 具合は大丈夫なの?」
カレンと呼ばれた赤い髪の少女がほのかに微笑む。問いかけからするに病弱なのだろうが、その印象そのままの雰囲気だ。
「ええ。心配かけてごめんなさい」
「ううん、カレンは身体が弱いんだもん。無理しないでね。ルルだってこの間、生徒会の仕事を遅くまでやってて翌日寝込んじゃったし」
「―――ルル?」
出てきた名を思わず繰り返してしまい、スザクは心中でしまったと思う。同じ文字を含んでいるからといって、彼女のわけはないというのに。彼女は七年前に死んだのだ。認めたくなくても、それが事実。スザクはきつく拳を握りしめる。
「ルルってのは、俺やシャーリー、カレンと一緒の生徒会役員で副会長。病弱でさ、学校も休みがちなんだけど、すっげー美人」
シャーリーがカレンの元に行ってしまったので、代わりにリヴァルが説明する。へぇ、とスザクは表面だけで相槌を打った。やはり彼女ではない。確かに身体面で優れてはいなかったけれども、彼女は病弱なまでの軟さではなかった。
同じ文字を含んでいるなんて、何てむかつく。一方的な苛立ちを抱き、スザクは心中で自分はその「ルル」とやらに優しく出来ないだろうと思った。優しさを捧げる相手はもういない。この世の、もうどこにも。
「お、噂をすれば」
リヴァルが笑ってドアの方を見る。スザクもつられるように同じ方向へ顔を向ける。シャーリーの明るい声がする。
「おはよう、ルル! 今日は来れたんだね」
「ああ。おはよう、シャーリー」
現れた女生徒はそう挨拶して、アメジストの瞳を細めて笑った。黒く短い髪が揺れる。信じられなくて、スザクはただ目を見張った。
「ルルーシュ・・・・・・?」
笑う。喋る。歩く。動く。そのすべてが生き物の動きで、その瞳とゆっくりと視線が重なった瞬間、スザクは椅子を蹴っていた。
「ルルーシュっ!」
死んだはずの彼女が、そこにいた。



ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの死と共に枢木スザクは死んだ。残されたのは復讐を誓った少年のみ。彼女を殺した輩をすべて殺そうと墓石に誓った。そのために憎んでいるユーフェミアの騎士を続け、軍に入り、あまたの戦場を駆けめぐってきた。すべては愛している彼女のため。死んだと思っていた。だけど今、彼女はここにいる。腕の中、引き寄せた身体は温かい。
「ルルーシュ・・・・・・っ!」
声が涙に濡れてしまったけれど構うことなんてない。喪ったはずの彼女がここにいる。スザクと同じように成長した17歳の身体。長い髪はもうないけれど、上下する胸が確かな鼓動を教えてくれる。
「生きてたんだね・・・・・・! よかった・・・本当によかった・・・っ!」
細い身体は、もうスザクの腕にすっぽりと収まってしまう。愛しくてきつく抱きしめた。もう離さないように、きつくきつく抱きしめるのに。耳元で声は冷ややかに打ち砕く。

「―――おまえ、誰だ?」

少女にしては低いけれども、涼やかな響きを帯びている声。いつまでも聞いていたくなるそれは、言葉をスザクに伝えない。不審に顰められた眉が、スザクの意識を引き戻す。今、彼女は何と言った? 覗き込んだアメジストの瞳は感情を表すことなく、ただスザクを見つめている。
現実は残酷に、事実だけを突き付ける。少女の赤い唇がひらめいて、スザクを再度絶望の底へと叩き落とした。





おまえは、誰だ。
2007年3月5日