たくさんの情報が一気に与えられて、どうすればいいのか分からない。ただスザクはルルーシュに会いたいと思った。会わなくてはいけないと思った。
彼女と話をするために、ユーフェミアの離宮を抜け出して夜道を走った。





and I love you
12.月明かりに約束





夜半を過ぎていたというのに、アリエスの離宮のメイドは昼と変わらない姿で玄関の扉を開いてくれた。来訪者がスザクということで驚いていたけれども、すぐに以前と同じ温かな笑顔を向けてくれる。ユーフェミアの離宮の使用人とは違うその様が、本当に尊く素晴らしいものなのだとスザクは知った。これは派遣してくる後見貴族と、そして何より主の違いなのだろう。ルルーシュはいつだって周囲に目を光らせ、過不足なきよう計らっていた。
「スザク様、もうこちらの離宮にいらっしゃるのはお止め下さい」
ルルーシュの居場所を教えてくれたメイドは、静かにそう告げる。走り出しかけたスザクは、我が耳を疑った。
「ルルーシュ様は日本にあるブリタニア大使館の館主に任じられました。三日後にはこちらを発たれます」
ですからもう、いらっしゃるのはお止め下さい。メイドはそう言って頭を下げた。すべてが自分の周囲から失われていくように、スザクは感じた。



整備され尽くしている宮殿を、奥へ奥へと向かって走る。青々としているはずの木々さえ今は闇に染まっているけれど、月光が静かに行く先を照らしてくれる。ささやかな光は己の輪郭さえ曖昧にする。だけどとても優しく、気づけないほど静かに包んでくれるそれは、まるでルルーシュのようだとスザクは思った。優しい、優しい光。
そんなルルーシュは酷い中傷を受けていた。第七皇子の言葉を思い出し、スザクはきつく拳を握る。あの男はルルーシュという少女を知らない。本当の彼女がどんなに優しくて、どんなに綺麗かを。不条理な中傷に、ルルーシュが傷つかなかったわけがない。だけど彼女は母と妹の思い出が溢れる離宮に篭ることなく、政治の舞台に立つことを決めた。それは、どうして。
政治家としての自分を確立するべく、ルルーシュは戦場に赴いた。軍略を駆使し、三ヶ国を落とし、ブリタニアの属国とした。血が流れなかったとは思えない。少なくとも人は死んだのだろう。あの小さく白い手のひらは、すでに血に染まっていた。スザクが握り、包み込んだ手は血に染まっていた。それは、どうして。
アリエスの離宮で見せる気遣いとは裏腹に、政庁でのルルーシュは他を侮蔑する言葉を平然と言ってのけていた。戦いすら肯定していた。だけどそればかりが彼女の本質でないことを知っている。傷つけられることの恐ろしさはルルーシュ本人が痛いほど知っている。それでも他を足蹴にし、その屍を踏みつけていく。それは、どうして。
成り上がろうとしている彼女が、相反して日本を守っている。スザクが守ろうとし、だけど捨てようとした国。捨ててしまいたかった国を、ルルーシュが守っている。それは、どうして。
母と妹を殺した犯人を知っていて、だけどその息子に己の後見を頼んだ。悔しいだろうに、彼女の激しさを思うなら復讐だってしたいだろうに、だけどそうはしなかった。頭を下げて膝を折った。それは、どうして。
分からないことがたくさんある。考えても考えても分からない。どうして教えてくれなかったのかと思ってしまう。だけど、すべて一人で抱え込むのがルルーシュという少女だった。分からない。分かりたい。想いだけが苦しいほどに募って、スザクを奥底から突き動かす。
開かれた墓地に、彼女は独り立っていた。

「ルルーシュっ!」

泣き叫んでしまいたかった。だけどそうすることは出来ない。強くありたいのなら、もう涙など流せない。
せめて、彼女の隣に立てる日までは。





月に、星に、空に誓うよ。
2007年2月11日