今日で五日、ルルーシュは離宮を留守にしていた。帰ってくるのはもう五日後だ。シュナイゼルについてナンバーズの視察に行くのだと言っていた。言ってから出かけてくれるほどに、ルルーシュとスザクは打ち溶けていた。彼女の指示なのか、ミレイは毎日様子を見に来てくれる。マリアンヌとナナリーを守れなかったという後悔が、後見としての彼らにあるのだろう。だからアッシュフォード家から派遣されてくる人たちは皆スザクに好意的だったし、ルルーシュに限りない敬意を持って接していた。彼らを従えるルルーシュは幼いながらにも女王様のようで、スザクはそんな彼女を見るのが好きだった。
and I love you
7.愛情の真義
ルルーシュが留守の間も、スザクは家庭教師の授業を受け、稽古に明け暮れていた。一人の食卓は寂しくて、いつの間にかルルーシュと共にいることに慣れてしまったのだと気づく。指折り数えてスザクは彼女の帰りを待っていた。
今日も一日の稽古を終えて、スザクは庭を見て回っていた。この庭の手入れは、ルルーシュの母、マリアンヌの嗜好から来ているらしい。彼女は人工的な美よりも、そこにある自然を好んだ。だからこそ剪定は最低限のものだけで、草木が伸びやかに育つ庭が出来上がっている。薄紅色の薔薇が綺麗に咲いているのを見つけ、スザクは思わず微笑んだ。けれどルルーシュが帰ってくるまでに枯れてしまうことに気づき、肩を落とす。淡い薔薇はきっとルルーシュに似合うと思ったし、彼女が喜んでくれると思ったのだ。
「・・・・・・そうだ!」
ふと閃き、スザクは刺に気をつけながらその薔薇を二本手折る。ルルーシュが見られないのなら、せめて彼の母と妹の墓前に供えたい。離宮から出てはいけないと言われているけれども、皇族の墓はアリエスの離宮よりも一層奥まったところにある。以前にルルーシュの後をつけたときも、誰一人ともすれ違わなかった。だから大丈夫だろうと推測し、スザクはそっと離宮を抜け出した。
墓地までの道は難しくなく、記憶を頼りに向かえばすぐに到着することが出来た。周囲を見回しても人影はなく、スザクは前にルルーシュが花を添えた場所を探す。墓石は豪華なものや簡素なものなど様々だが、これも個人の生前の格によるのだろう。死んだら一緒なのに、とスザクは思う。
「あった」
マリアンヌとナナリーの名が刻まれた墓石は、やはりシンプルなものだった。けれど土で汚れておらず、きっと出張に行く前にルルーシュが来たのだろうとスザクは推測する。摘んできた薔薇を供えようとするが、風に飛ばされそうなので茎の上に石を置いた。両手を合わせて拝んでから宗教が違うことに気づいたけれど、祈る気持ちは一緒だし、多分大丈夫だろうとスザクは勝手に思うことにする。芝生に腰を下そうとして、何となく正座した。丸めた手を膝に置き、二つの墓石に話し掛ける。
「はじめまして、枢木スザクです」
もちろん返事は返ってこない。午後の風がスザクの茶色い髪をふわふわと揺らす。
「日本の首相、枢木ゲンブの息子です。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。えっと、その、一応、ルルーシュ、じゃなくてルルーシュ、さんの、婚約者です」
ここにはスザク以外誰にもいないというのに、どんどんと顔が火照ってくる。うわぁ、と内心でスザクは頭を抱えた。恥ずかしい。だけど一度挨拶したいと思っていたのだ。他ならぬルルーシュの家族に。
「僕は頭も良くないし、日本人だし、格好だってよくないし、ルルーシュ、さんにとっては全然プラスにならない婚約者だけど」
自分で言っていて、スザクは少しだけ悲しくなった。ルルーシュはあんなに頭が良くて綺麗で何でも出来るのに。自分が彼女に勝っているものは運動神経しかない。
「でも、僕、頑張りたいんです。ルルーシュ、さんのことを、少しでも支えられるように。ルルーシュ、さんは忙しいから、帰ってきたときくらいはちゃんと休めるように、いつだって笑顔で出迎えます。僕、ルルーシュ、さんに本当に良くしてもらってるから、せめて少しでいいから恩返ししたいんです」
それに、と呟いてスザクは視線をうつむける。
「ルルーシュ、さんは、笑ったらきっと可愛いと思うんです。あっ、もちろん笑ってないと可愛くないとかそんなんじゃなくて! 笑ってない時はこう、綺麗っていうか、えっと、すごく凛々しくて、僕なんかよりずっと格好よくって!」
スザクはわたわたと手を振って否定する。しかし広がるのは沈黙だけで、静かな墓石に力を抜き、へらりと笑う。
「だけど、図書室にあったアルバムに写ってたルルーシュ、さんは、すごく笑ってたんです。それはきっと、お二人と一緒だからだと思うんですけど」
背筋を伸ばし、再びきちんと正座する。
「僕もルルーシュ、さんに、一緒にいてそんな風に笑ってもらえるようになりたいから。だから頑張ります」
スザクはふかぶかと頭を下げた。これ以上ないほどに礼を尽くして、日本の父に向かうときよりも緊張しながら。
「よろしくお願いします! マリアンヌ、お母様! ナナリーちゃん!」
聞いている者がいたのなら笑い出しただろうけれど、スザクはいたって真剣だった。何度も何度も頭を下げ、同じことを墓前に誓った。
帰り際、スザクは木に引っ掛かっていた第四皇女ユーフェミアの帽子を取ってあげた。皇族と顔を合わせるべきではないと分かっていたが、彼女の泣き声に放っておくことが出来なかったのだ。しかし彼女は日本人であるスザクにも嫌悪の表情を見せず、にこりと微笑んで礼を言った。ルルーシュやクロヴィス以外にもこのような皇族がいるのだとスザクは発見を新たにした。たったそれだけのことだった。
たった、それだけのことだった。
2007年2月3日